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「エスニック風」


風に乗るスパイシーな香り。

通りの先に見えてきたのは藁葺を模した屋根。

カジュアルな印象のエスニック風レストランだった。

いや、レストランと言うより、東南アジアの大衆食堂。

そう言ったほうがピンとくる。

入ってみるか。

ええ。

わたしの唐突な問いかけに妻が頷く。

木彫りの装飾が施された扉を抜けると、

幾千もの香りが渾然一体となり、鼻腔に飛び込んでくる。

身体の中心で食欲の風船が急速に膨らんでゆく。

それはもう破裂せんばかりに。

ランダムに配置されたテーブルを埋め尽くす客。客。客。

喧騒。スパイス。人いきれ。

手に手にトレイを掲げ、席と席との間を華麗に縫い進むホールスタッフたちも皆一様に、

額に汗を浮かべている。

活気があっていいじゃない。

隣で妻が言う。

食べてみようよ。ね?

そうだな。

わたしも頷く。

小太りで口ひげを蓄えたスタッフに、店の奥へと案内され、席に着く。

ああー、ほんと刺激的で、いい香りだわ。

お腹空いてきちゃった。わたし。

何にしようかしら――

そよぐ微風。

メニューをめくる妻の手が止まる。

これこそ香辛料のカオスが巻き起こす風なのだろうか。

妻が顔を上げた。

このスパイシーな香りって……ガラム・マサラ? 

いや。待て。

妻の問いを手で遮る。

わたしは気付いた。

隣の席で給仕するスタッフを横目でちらりと見、さりげなく指差す。

彼をよく見てごらん。

……

まさか……、あなた……

ホールスタッフが通るたびに起こる微かな風。

そこへ、ふわりと乗る香り。

そう。それは――

まるで・ガラム・マサラ。

わたしと妻はついに、香りの発生源を知ってしまった。

なんと、彼らが身に着けている白いシャツの脇の部分に、黄色い汗染みが……。

しかも。

皆が皆だ。

ねぇ、あなた……

妻の顔が見る見る間に青ざめてゆく。

ああ。間違いない。

ここは、

体臭食堂だ。












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この記事へのコメント
最近、おいしそうなネタが多いと思ったら、
最後は臭そうじゃないですか( ̄□ ̄;)
コケちゃいましたよ〜。
ああ、香辛料のカオス。
Posted by ia. at 2008年10月11日 01:25
流れるような語り口と香りの表現で
ふわぁ〜っと心地よくなってたところに脇汗。。。
ムムム・・・そういえばタイトルにも「風」が。
そうか、そういうことだったんですね。
Posted by naena at 2008年10月11日 13:40
ふふ、エスニックな気分にさせておいて、
最後はダジャレ落ちなのね。
ベタなのにワラカシテモライマシタ。
食べ物によって確かに汗の匂いとか変わりますよね。

この作品の主人公のツレが、
彼女でも友人でもなく妻だった理由。
ここに日常のミステリが潜んでる気がします。
なんか匂うんだな、ここ。
そう推測する理由がもうひとつあるんです。
Posted by つる at 2008年10月11日 14:23
ダジャレ落ちということで、拝読させていただきましたw
うん、こんな食堂はイヤだwww

皆さん、よく思いつくなー。
私もダジャレ落ちの作品、書いてみようかな^^;
Posted by たろすけ(すけピン) at 2008年10月11日 22:40
黄色い染みっていうところが
怪しげな臭いを漂わせてて好きです。
体臭食堂と大衆食堂。
ia. さんにしろ、たろすけさんにしろ
みんな落ちがよく思いつくと思って感心しちゃうわ。
私も頑張らなきゃなぁ(汗)
Posted by at 2008年10月12日 01:09
iaさん>
こんばんは。
うははw臭そうなネタでスンマセン^^;
こんなくだらねー話書いてていいんだろうか。俺。
ま。たまにはいっか(笑)

naenaさん>
こんばんは。
>流れるような語り口と香りの表現
おお。なんだか嬉しいなー。
せっかくいい感じだったかもなのに、
こんなオチを持ってきて俺ってば……(ノ_<。)
そう。タイトルはエスニック風(かぜ)なんですw

つるさん>
こんばんは。
いやマジでね。
俺雑居ビルのエレベーター降りたときに、
スパイシーな香りを感じてさ。
あれ? ここトルコ料理屋あったっけ?
なんて思ったら、近くに小太りがいてさ^^;
そんな実話を元に書いてみました(笑)

>日常のミステリが潜んでる
なになに?? どういうこと??
自分で書いてて読み取れない俺は作者失格?(;´д`)

たろすけさん>
こんばんは。
コレ。たろすけさんの好きそうなネタですよねぇ^^
(どんなイメージだw)
たまには駄洒落もありですよねー。
ネタが切れた時にはぜひ。

舞さん>
こんばんは。
体臭にも色々ありますしね。
どうやら、この店はスパイシーな店員が多いようです(笑)
駄洒落って変換で偶然、って時もありますね^^

Posted by レイバック at 2008年10月12日 02:21
LOL (^○^)
笑わせて頂きました!

でもその小さいエレベーターのスパイシーな
香りの人。。。いやだなぁ(-_-;) 
でも日本に帰ると結構どこでもいろんな匂いに満ちていてびっくりします
Posted by Juny1 at 2008年10月12日 06:50
そっちのタイシュウですか!
なんとなくトラックの運ちゃんがたくさん詰めかける
主要道路沿いの食堂を連想してしまいました^^;

レイバックさんの駄洒落オチは
キレがありますね(^-^)
いい感じに肩の力が抜けて、
またまた笑わせていただきました!
Posted by shitsuma at 2008年10月13日 22:37
Juny1さん>
こんばんは。ありがとうございます☆
まじでね、意識して嗅ぐと(敢えて嗅ぐなよw)、
結構スパイシーな体臭の人いますよ。ぜひお試しあれ。
日本では特に人と人が接近する機会が多いじゃないですか。
満員電車とかね。ついつい匂いには敏感になりますよね^^;

shitsumaさん>
こんばんは。ええそうなんです。
タイシュウはタイシュウでも加勢タイシュウではありません(笑)
駄洒落でも本気で書くと……
いやいや、実際は、
こんなんでいいのかなと思いながらUPしてます^^;
ま。たまにはいいですよねw



Posted by レイバック at 2008年10月13日 23:40
そこはホレ、オバサン特有の好奇心てやつよ。お正月に、レイバックさんが良いお酒を飲まれたという記憶が残ってたものだから、オヨロコビゴトでもあったかと邪推したのよ。忘れて。小説と関係ないから。このコメが誰にも見つかりませんように。
Posted by つる at 2008年10月15日 23:59
つるさん>
こんばんは。
なるほど。そういうことか(笑)
そっち方面は残念ながら何の進展もないんだよねぇ。
それに、もしそんなビッグニュースがあればちゃんと報告しますよ〜^^
Posted by レイバック at 2008年10月16日 23:21
ギャハー ≧▽≦
予想外だったので、爆笑しました〜。
それにしても レイバックさんの描写で
むっとするような 混沌の
インドか中東にいるみたいな。。。
すっかりそのレストランにいるような錯覚を覚えました☆
そのカオスや空気の澱んだ感じ・・匂いまで
感じられてスゴイなと思いました。
Posted by らに〜た at 2008年10月23日 19:00
らに〜たさん>
ども! ありがとうございます☆
ほんとくだらない話で申し訳ない(笑)
夏場の危険な香りには特に要注意ですよね。
あーエスニック料理食べたいなぁ(´Д`)
Posted by レイバック at 2008年10月25日 06:33
黄色い染みはヤダなぁ。
ダジャレオチは楽しいですね。
しかし読んでよかった。
このオチ、考えたことがある……;



Posted by 火群 at 2008年11月26日 23:58
火群さん>
ども!
ヤですよねぇ(笑)
ダジャレオチばっか思いつくんですけど、
なかなか連発はできないから困りますね^^;
まじっすか。でもダジャレって絶対先達がいますもんね、ぐぐると冷や汗が出ますもんw
Posted by レイバック at 2008年11月27日 23:26

 大衆じゃなく体臭食堂!?


 バカか、てめーえは   筆を折れ、筆を


 ついでに下半身の”筆”先も乾かせよ! ボケが
Posted by Sニック風 at 2016年11月16日 18:59
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