拙者。少々酔っている。
混雑する車内。
さっきの停車駅で降りる者がちらほらといた為、なんとか座席にありつけた。
ふう。
目が疲れた。
時代物の文庫本をバッグに仕舞い、代わりに携帯電話を取り出す。
肩を狭めながら画面を覗き込む。
先日、機種変更したばかりなので、まだ操作が覚束ない。
いや、覚束ないのはもちろん、酔いのせいもある。
着信ランプが緑色に光る。
メールが入った。
From:ユミ
“今日は飲み会だったんだよね?
大丈夫? 飲みすぎてない?
あたしはさっき電車に乗ったところ。
気をつけて帰ってね。”
携帯SNSで知り合った女。
自称・北川景子似だという。
プロフィールに貼られていた横顔の写メは、
フィルター処理されていたものの、たしかに美人に見えた。
まぁそんなもの、てんで当てにはならぬのだが。
さて、返信せねば。
ええい。くそ。
キー上に於いても千鳥足な自らの指にイラつきながら何度も文字を打ち直す。
“もう飲み会は終わって、今は電車の中だよ。
すごく混んでて参るね。酒臭い人も多いし――”
もちろん。俺もその発生源の一人なのである。
まぁそれはそれ。いわゆる棚上げだ。
うう。それにしても狭い。
このオヤジ。俺に寄りかかるんじゃない。
肩でどんっ。と突き返してやる。
オヤジは一瞬驚いたように目を開け、こちらを睨みつける。
俺はひるむことも無く睨み返す。
――こやつ。ぶった斬ってくれようか。
オヤジはすっと目を逸らす。
しばし平穏な時が訪れる。
オヤジは再び、こくりこくりと舟をこぎ始める。
まぁその程度の揺れならよかろう。
問題はこちらにもある。
ぎろり。と目を転ずる。
左隣の太ったオンナ。
そなたは明らかに香水のつけ過ぎだ。
露骨に顔をしかめて鼻をすすってみたものの、オンナは携帯に夢中で気付かない。
蚕のようにむくむくとした指のくせに超高速でメールを打っている。
スワロフスキーでごてごてと装飾された携帯電話は嫌でも目を引く。
それで大根が下ろせそうだな。などと思う。
ひょいと背を伸ばして覗き込むと、画面は虹色に光っていた。
生意気にもメールブロッカーか。
フ。
誰もそなたのメールの内容に興味などないというのに……。
そうだ。
メールの続きを打たねば。
“――隣の女の子の香水の匂いがすごくてさ。
なんだか気分が悪くなってきたよ――”
おお。いかん。
もう次の駅ではないか。
“――じゃ、家に着いたらまたメールするから。”
送信。
携帯のマナーモードを解除し、胸ポケットに仕舞う。
電車を降り、改札を抜ける。
目の前にはコンビニがある。
ふらふらと入口に寄り付いた俺は、缶ビールとつまみをカゴに入れ、レジへと向かう。
金を払っていると、ポケットの中で着信音が鳴った。
薄暗い夜道を一人歩きながら携帯を開いた。
静けさの中。手元だけが薄らぼんやりと光る。
メールが入っていた。
From:ユミ
“あたしの隣の男。さっきやっと降りたよぉ。
お酒臭いし、一人でぶつぶつ言ってるし、
それに、人のメール。やたらとジロジロ覗き見てね、
ほんと感じ悪かったんだ――
ショートショート:目次へ
タグ:ショートショート
(言わないよ!)
次回は是非、フランス文学を読む「吾輩」で。
「この携帯、大根もおろせるのよ」「まあ、便利!」
と、ツッコミどころも満載ですが、
オチはそうきましたか!
さりげなく意表を突かれて、ツボにはまりました(^^
知らぬが仏とはこの事だ。
『ってか気づけよ!』って
しばらく経ってからツッコんじゃいましたよ。
やっぱレイバックさんのショートは最高だわ♪
期待してましたから★
きっと痩せたら北川景子になれるって信じてるんでしょうね…(´▽`)もしくはそのままでもとでも…??w
最初の一行で読む気まんまんになりました。出だしって大事ねー。
しかも、これ以外にオチがないと思う、なのに読んじゃう。面白かったわー。
それに、ショートショートの中に実に女心がでてるわ。
だって、女って、自分が決して美人じゃないって知っているんです。でも可愛くないとは決して思ってないんです。だから、生きてられる。そういうとこあります。
その点、男はあんまり大嘘はつかないね。そんなこと考えました。
レイバックさんのショートショートほんと面白い(^O^)
出版されればいいのに( ̄∀ ̄)
これ、実話ですか?なんて^m^
皆さんのツッコミにも笑わせてもらっちゃいました☆
こんばんは。
シャープな一人ボケツッコミをありがとう(笑)
ちょっとバレバレだったかな? 大丈夫だった?
本格好きなiaさんを警戒してたんだよなー^^;
舞さん>
こんばんは。
なかなか写メレベルでは判別出来ないですよねー実際は(笑)
久々に書くとぎこちなくなるね^^;
褒めていただいてありがとです〜☆
ポンさん>
こんばんは。
ハイ。予想通りだったでしょーw
スンマセン^^;
北川景子は好みなのでついつい実名で書いちゃいましたね(笑)
つるさん>
こんばんは。
たしかに一行目はインパクトあるかもね(笑)
今回は、ちょっと変な言葉遣いで遊んでみました。
なんか小説(もどき)を書くようになってから、
街中でもやたらと人間観察するクセがついちゃいまして……
それが、かわいい女の子だと尚更……
ハハッハハハh ヾ(´▽`;)
カナリアさん>
こんばんは。
おお。嬉しいお言葉!
ありがとうございます^^
ほんと、そんな風に言っていただけると励みになります。
目指せ、書籍化ー!(笑)
naenaさん>
こんばんは。
ハイ。やっちまいましたねぇ(笑)
そう、これ実話。
って、なんでやねんヾ(´▽`;)
中途半端なツッコミでス、スミマセン……
あはは。酔ったら武士になるんですね。手に負えないので酔わせないようにしてください、周りの皆さん(笑
ユミちゃんはきっと昔の写真をそのまま貼ったんでしょうかね。
私もタマにあります。十数年前に女子大生だったころの写真…(笑えん;
で、最後のメールで気づいたのかな? 酔っ払いさんは…。
こんばんはー。
うん。時代小説読んでたしね(笑)
この男。酔わせると危険( ´艸`)
どうでしょうねぇ。
今、写真って、いくらでも画像処理できるじゃないですか、
だからこういう事態も十分に考えられますよね。
お。というと、ゆきこさんも僕と同世代かもしれませんねー^^
香水臭い女vs酒臭い男
永遠のテーマだな
どっちも社会の粗大ゴミだ