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「六月の鯨」2


「どうする? 自転車で行くか?」 

 佑太はアキラに向かって言った。この辺りから塩見浜までは、それほどの距離ではない。佑太たちの足でも、4、50分も自転車を漕げば行けるはずだった。父親にクルマで連れられて、何度も海水浴には行っているので、道もなんとなく覚えていた。

「電車の方がいいだろ。日が暮れるぞ」

 アキラは小さな声でそう言うと、ちらりとミノルの方に目をやった。当のミノルは、アキラの視線にもまるで気付かずに、悠々とブランコを漕いでいる。

 佑太はアキラの言葉に頷いた。

「よし。電車にするか。じゃ、みんな必要なものを家に取りに帰って、もう一回ここに集合でいいな」

「必要なー」 「ものってー?」 

 ミノルが小太りな身体をスイングさせながら佑太にたずねる。

「とりあえず電車賃だな。往復1000円もあれば足りるだろ。あとはなにか要るかな?」

 佑太はアキラの方を向いて言った。

「お菓子!」

 ミノルが急ブレーキでブランコを止めたかと思うと大声を上げた。

 意表を突かれた佑太とアキラは、一瞬固まったあと、同時に噴き出した。

「駄目だ。腹いてぇー」 

 佑太はブランコの柱に手をかけて必死に声をしぼり出した。

「ミノルぅー、一応これ、冒険のつもりなんだからさー。それらしいものも持って来いよなー」

「ええー、それらしいものってなんだよー。水筒とか?」

「ミノルにかかると冒険っていうより遠足だな」

 アキラが、からかうような調子で、ミノルの二の腕を、肘で軽く押した。

「ちょ、ちょっと、やめろよ。じゃあいったいなんなんだよー」

 ミノルは柄にもなく怒った様子でアキラに言う。

「ポケットナイフとか懐中電灯とか――あとコンパス?」

「おいおい。ジャングルに行くわけじゃないんだからさー」

 佑太の突っ込みで、三人とも一斉に笑う。

 佑太たちは、冗談を飛ばしながら公園の入口に向かい、停めておいた自転車にまたがった。

「じゃ、二十分後にここに集合な」


  ☆     ☆     ☆ 


 七階でエレベーターを降りた佑太は、廊下を奥へと進んでゆく。

 自宅の前で立ち止まると、ポケットから鍵を取り出し、ドアを開けた。

「ただいまー」と言ったところで、家には誰もいない。父親はもちろん仕事だし、母親もパートに出ていた。

 佑太は自分の部屋に入った。

 乱雑に積み上げられたダンボール箱を掻き分け、学習机の上にぽつんと置かれた貯金箱を手に取る。裏返して、底蓋を開けると、小銭と折りたたんだ紙幣が数枚出てきた。先月ゲームソフトを買ったため、紙幣は数枚しか残ってなかったが、その中から二枚の千円札を抜き取り、短パンのポケットに滑り込ませた。

 部屋を後にした佑太は、キッチンで冷蔵庫から500mlのお茶のペットボトルを取り出し、リュックの中に入れた。

 急いで公園に戻ると、既にミノルが待っていた。

「おー、早いなミノル」

「ちゃんとお菓子持ってきたからね」

 ミノルは嬉しそうにパンパンに膨らんだ背中のリュックを叩いた。

「お、お前、もしかして、その中身、全部お菓子?」

「まっさかー、ちゃんとジュースも持って来てるよ」

 ミノルは首から下げた水筒を揺らした。同時におなかの肉もたぷたぷと揺れている。

 やっぱリュックの中お菓子だけじゃん! と、佑太は心の中で突っ込んだ。

「ミノル、それリュックに入れとけよ。ぶらぶらさせてると自転車漕ぎにくいだろ?」

「あ、それもそうだね」

 ミノルはリュックを肩から外そうとするが、水筒のストラップと絡まって、一人でお祭り騒ぎになっていた。

「あーもう、俺が入れてやるよ」

 佑太は苦笑いしながらミノルの首から外した水筒をリュックの中に入れてやった。ちらっと見えただけでもリュックの中には数種類のお菓子が入っているのが分かった。

「それにしてもおそいなー、アキラ」

 佑太は公園の時計を見やった。

「うん、もう余裕で三十分以上経ってるよね」

「家まで見に行ってみるか」

 佑太とミノルは自転車にまたがり、アキラの家へと漕ぎ出した。













  「六月の鯨」3へ つづく


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この記事へのコメント
出た、水筒(笑)
こういうとき主人公は作者が投影されてたりするものなので、
きっと佑太のリュックにはアメや絆創膏も入っているんでしょうね(^^
ミノルが可愛いですねー。ぽっちゃり、まったり。
アキラはクールなタイプかな?

でも大変そうだなぁ。
キャラ書き分けて、ストーリー進めて。
とっても楽しみにしているので頑張ってくださいね♪
Posted by ia. at 2009年06月20日 04:17
のんびりまったり、夏休み秘密の探検ムードで進んでますねえ。

ここからスタンバイミー的に、持ってかれたら、かなりツボかもしれないです!
Posted by 銀河系一朗 at 2009年06月21日 23:33
iaさん>
こんばんは。
おっと。ネタバレ厳禁ですぜ(笑)
アメちゃん出したら、また、おばちゃんって言われるなぁヾ(´▽`;)
それにしてもキャラの書き分けって類型化しがちで難しいですねぇ(´Д`)

銀河系一郎さん>
こんばんは。
こういう少年の冒険話って、ほんとわくわくしますよねー(´ー`)
まだ先が決まってない話ですが、頑張って書きますね(笑)
Posted by レイバック at 2009年06月22日 00:58
あ〜、ジレッタイ。
でもここでこどもたちの説明は必要なのよね〜
人の連載ってジレッタイわ〜どうしてくれよう。
Posted by つる at 2009年07月13日 23:32
つるさん>
キャラの背景をどの程度書くべきかって難しいですねぇ。
まだまだ修行が足りんですヾ(´▽`;)
Posted by レイバック at 2009年07月16日 00:42

 せ、せいかつ… 生活習慣病で、、、あ、アメちゃん アメちゃんを…
 大阪のおばちゃん、アメちゃんや アメちゃん くれやー

 おっと糖尿の気で、甘いものの禁断症状が

 しっかし、これ…ショートショートやないな ロングロングやなぁ
 佑太くん、小学生ぐらいから、お菓子ばっかり食べてると、先生みたいに
 生活習慣病になってまうでぇ

 食生活指導もせなあかんなぁ 先生、疲れたよ 君の個人的生活指導せな、ならんで
Posted by 生活習慣病教師 at 2016年10月30日 15:56
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