佑太たちは自転車を漕ぐ。
アキラを先頭に、佑太、ミノルと、適度に間隔を空け、縦一列に編隊を組む。
緩やかな坂を上り切ると、その先は直線道路が続く。スーパー、ホームセンター、ファミレスと、道路沿いには大きい店が並んでいる。賑やかな箇所を通り過ぎ、さらにしばらく走ると、やがて駅の建物が見えてきた。
先頭のアキラは、ゆっくりとスピードを緩めてゆく。駅前のロータリーに隣接する駐輪場の前で、アキラは完全にペダルを止めた。
佑太とミノルもすぐに追いつき、アキラの横に並ぶ。
「ここで、お別れだな」
アキラはなぜだかとても嬉しそうに言う。
「お前、ほんとに自転車で行くつもりか?」
佑太は、返ってくる答えが分かっているのに、つい言ってしまう。
「なんだ佑太、そんなにジュース代が惜しいか?」
アキラは、わざとらしく片眉を吊り上げた。
「そ、そんなことねーよ」
佑太はアキラの挑発に乗ってやる。
「ねぇ、二人とも、それより、あれ見てよ」
ミノルが二人の会話に入ってきた。
アキラがミノルの指の差すほうを振り返った。
「げ、あれ1組の担任じゃん」
「えーと、斉藤先生だっけ」
佑太は目を細めて言った。
白いマスク姿の教師は腕を組み、駅の改札へ降りる階段の前で、仁王立ちしていた。
「なんであんなところに突っ立ってるんだよ」
アキラは、訳が分からんといった調子で言う。
「俺分かった」
ミノルが甲高い声を出す。
「なんなんだよ」
二人の声が重なった。
「見張ってるんだよ。ほら、生徒が遊びに行かないように」
ミノルは人差し指を立てて説明する。
「そうか、インフルエンザか」
「だって、俺たち自宅謹慎中の身だもん」
ミノルはそう言いながら、ひとりうんうんと頷いた。
「バーカ。自宅待機だろ」
佑太はすかさず突っ込んでやる。
「どうしよう?」
「捕まったら電車に乗れないぜ」
「みんな自転車で行くことにする?」
「でもミノルお前、身体……」
佑太はミノルに向かって言った。
「塩見浜でしょ? 行けると思うよ」
ミノルは、まるで平気そうな顔をしている。
だが、佑太は思い出していた。
ミノルは先日の体育の授業中にも胸を押さえて倒れたばかりだった。生まれつき心臓が弱く、医者から激しい運動を止められているのだ。
もっとも倒れた時は、ただラジオ体操をしていただけなのだが……。幸い大した事はなかったものの、その時は、さすがに担任の教師も焦っていた。
佑太は額に手をかざし、空を見上げた。太陽は公園にいた時よりも、はるかに高度を上げている。
この強い日差しの中、何十分もミノルに自転車を漕がせることは、どう考えても無謀に思えた。
「俺にいい考えがある」
アキラが突然顔を上げた。
「いいか。俺がおとりになって、やつの前を自転車で通るから、その隙にお前らは、あのエレベーターで下に降りろ」
佑太はアキラの指差す方に目をやる。
駅の階段の左手、少し離れたところに、一基のエレベーターがあった。おそらく車イスの人や、お年寄り用に設置されているのだろう。
たしかにあの位置なら、教師の視線さえ逸らすことが出来れば、なんとかなるかもしれない。
「でも、お前が捕まったらどうするんだよ」
「おいおい、俺があんなメガネに捕まるかよ」
アキラは気分を害した様子で眉をしかめる。
「分かったよ。とりあえず、自転車を停めよう」
佑太とミノルは、駐輪場に自転車を停めに行った。
その後、互いの動きを確認した三人は、早速作戦に移った。
植え込みに身体を隠しながら、佑太とミノルは駅に近付いてゆく。
おとり役であるアキラは、ロータリーをのろのろと自転車で進んでゆく。
植え込みがちょうど切れる手前で、佑太とミノルは待機する。
教師は、まだアキラの自転車に気付いていないようだ。
アキラは、ちらりと佑太たちの位置を確認し、ペダルをぐっと踏み込んだ。
不意を突かれた教師は、一瞬戸惑ったように見えたが、すぐに声を張り上げた。
「あ、こらっ!」
今だ! 佑太とミノルはエレベーターに駆け寄る。
佑太は「降下」のボタンを連打する。
運良く、すっとエレベーターが上がってきた。
後ろを振り返ると、教師が逃げようとするアキラを走って追いかけていた。
エレベーターのドアが開く。
急いで佑太とミノルは乗り込んだ。
今度は「閉じる」ボタンを連打する。
ドアが閉まると同時に、埋め込まれたガラスから、アキラが教師に捕まる光景が見えた。
「うっわー! 捕まってんじゃん!」
ガラスの先は闇。
エレベーターは一気に下降する。
そして、ドアが開いた。
佑太とミノルは、改札の前で顔を見合わせた。
「どうしよう?」
顔を見合わせていても、何も案は出ない。時間ばかりが過ぎてゆく。
やがて電車の到着を知らせるブザーが鳴り始めた。
「仮に様子を見に行って、俺たちまで捕まったら最悪だ。アキラの行動が無駄になる」
「でもアキラが……」
「アキラはきっと、家に帰れって怒られるだけだと思う」
「……うん」
「帰るフリをして進路を変えて、塩見浜まで来るよ。あいつなら」
「そうだね」
「行こう」
佑太とミノルは、塩見浜までの切符を買い、改札を走り抜けた。
「六月の鯨」5へ つづく
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まだまだ波乱万丈ですね。
ミノルくんにもなにやら事情が!
アキラもヤバそう!
それでも海に行こうとするあたり、小学生男子ですね(笑)
こういうの、萌えますw
レイバックさんの作品を読んでると自分も何か書きたくなってきました。
そろそろ何か仕込んでみようかな?
どもども。
一応、ゆるいプロットを用意したんですけど……
ぜんぜん予定通りに進んでない!(;´Д`)
やれやれ、参ったなぁ。
三十路も半ばで小学生を書くことの難しさ。痛感ですわ(笑)
iaさんの連載モノも読んでみたいなぁ。
青春ぽいやつ希望ー( ´艸`)
いろいろ事情を抱えている分、
精神的にたくましいのでしょうかね。
いろんな関門が立ちはだかって、
なかなか一筋縄には行きませんね。
まさに冒険しているって感じがします(^-^)
こんばんは。
でしょー? お気に入りのキャラなんですよ(笑)
何個か壁は作ってみたものの、収拾つくのかなぁ……。
なんて作者がこんなこと言ってちゃいけませんねw
頑張って書き終えますヾ(´▽`;)
小学生の頃って、遊びはしたけど、それほどの冒険はしてないなー。
こういう話を読むとわくわくしますね。
どもども。
ありがとうございます。
僕は大阪の田舎育ちですからねー。
いろいろと冒険はやりましたよ。
定番の秘密基地とかも(´ー`)
そろそろ続き書かなきゃだなー(汗)
しかし私は生徒たちの生活指導担任教諭として声を大にして言いたい!
「こらぁ! インフルエンザの流行時期に、海なんぞ行ってるんじゃぁない! 大流行になったら、責任取れるのかぁ? 家で暖かくして海なんかに行って熱出して寝込むような真似するな!」
インフルエンザの時期という設定なんですね
そんな時期に、海へ鯨を見に行くとは…バカの極み ですね
冒険と危険の違いを知らない人間が増えてきた 無茶と無理の違いと同様に…
しかし私は生徒たちの生活指導担任教諭として声を大にして言いたい!
「こらぁ! インフルエンザの流行時期に、海なんぞ行ってるんじゃぁない! 大流行になったら、責任取れるのかぁ? 家で暖かくして海なんかに行って熱出して寝込むような真似するな!」
インフルエンザの時期という設定なんですね
そんな時期に、海へ鯨を見に行くとは…バカの極み ですね
冒険と危険の違いを知らない人間が増えてきた 無茶と無理の違いと同様に…
しかし私は生徒たちの生活指導担任教諭として声を大にして言いたい!
「こらぁ! インフルエンザの流行時期に、海なんぞ行ってるんじゃぁない! 大流行になったら、責任取れるのかぁ?」
インフルエンザの時期という設定なんですね
そんな時期に、海へ鯨を見に行くとは…バカの極み ですね
冒険と危険の違いを知らない人間が増えてきた 無茶と無理の違いと同様に…