(まずは、「六月の鯨」1 からどうぞ)
堤防に備えられた三段ばかりの階段を越え、二軒の海の家に挟まれた細い通路を駆け抜ける。
視界が開けた途端、強い日差しが佑太の頭上に降り注いだ。
佑太に先駆け、砂浜に突進していったミノルは、波打ち際数メートル手前で立ち尽くしている。
その姿に釣られたように佑太の足もスピードを緩めた。
大きなリュックの背中へ向け、砂浜を一歩一歩踏み締めるように歩いてゆくと、ミノルが腑抜けたような顔つきで振り返った。
「あれ? ねぇ佑ちゃん、俺たち何しに来たんだっけ?」
「……バカ」
佑太は、ねぇねぇとうるさいミノルを相手にせず、辺りを見回した。
左右数百メートルに亘って広がるオフシーズンの砂浜は閑散としている。
波打ち際、はるか彼方に、犬を散歩させている人の姿がぽつり、かろうじて見えた。
「あっ!」
ミノルが突然素っ頓狂な声を上げた。
佑太はミノルの指先を目で追い、肩越しに振り返った。
片膝を立て、堤防に座り込んでいる一つの影。
「アキラー!」
ミノルがばかでかい声を上げる。
それが合図だったかのように、アキラは堤防から砂浜に、ひょいっと飛び降りた。
自信満々な顔つきで、悠々と佑太たちのもとへ歩いてくる。
「おまえら遅ぇぞ」
アキラは細いあごを持ち上げ、眩しそうに眉をしかめたあと、にやりと笑った。
伸びたTシャツの襟元は汗で色濃く染まり、額から流れる幾筋もの汗が陽光をきらりと反射していた。
「俺の勝ちだな」 アキラは言った。
「なんだよ、先に着いてたのかよ」 佑太は舌打ちをした。
「ああ、ついさっきだけどな。タッチの差だったな」
「いやー、無事で良かったよ。俺たち心配してたんだぜー。ね、佑ちゃん」
ミノルが腰に手を当て、妙に偉そうな口調で言う。
「お前、完全に忘れてただろ、アキラのこと。海だー! わーい! とか言って子供みたいにはしゃいでたの誰だよ」
佑太はミノルをからかうように言ってやる。
「ちょっ、そんなことないないないない、嘘だよ、アキラ」
ミノルは慌てふためいて手をぶんぶんと顔の前で振る。
「ああ、堤防から見てた」 アキラがニッと白い歯を見せる。
「あらあら、ミノルちゃんってば、転ばないかしらー。って心配してたんだよ。俺も」
「こら! アキラ!」
ミノルは赤くなった頬を膨らませ、やーいやーいと尻を打っては逃げ回るアキラを、転がるように追いかけている。
「へいへーい」
「待てーっ」
やれやれ。
佑太は放り投げられたミノルのリュックを拾い上げると、海の家の前に捨て置かれた青色のベンチに、どかりと腰を下ろした。
「おい、佑太、こっち来てみろ! すげーぞ」
佑太が顔を上げると、さっきまで追いかけっこしていたアキラとミノルが肩を並べ、波打ち際でしゃがみ込んでいる。
「なんだよー」
佑太は座ったまま大声で尋ねた。
「いいから、こっち来いって!」
「ちぇっ」
重い腰を上げた佑太は、しゃがんだままもぞもぞとしている二人の元へ、ゆっくりと向かった。
「六月の鯨」完結編 へつづく
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アキラもレイバックさんも無事でホッとしました(笑)
最近コマーシャライザーというのが流行ってるみたいですよ。
レイバックさんも遊ぼー♪
それにしても、アキラの脚力、すごい!
着いてみれば、アキラが一番乗りか!
教師を振り切った武勇談も気になりますね。
こんばんは。ただいまです。
いやーよく寝たって感じですわ(笑)
コマーシャライザー、ちょろっと見ましたけど面白そうですね。
僕も宣伝しちゃおうかなー( ´艸`)
naenaさん>
こんばんは。
お待たせいたしました(笑)
いやー、過去最長のブランクでしたねぇ。
再開早々に読みに来て頂けて嬉しいです(´ー`)
アキラはスポーツ万能ですからねぇw
銀河系一郎さん>
こんばんは。
お待たせしてスミマセン。
おっと、そのあたりはなんも考えてなかったですわ(笑)
ラストがやっと見えてきましたよ〜。
代わりに、続きを考えてました。3人の少年は、解体した鯨肉を無料配布している列に並ぶのよ。あ、ちがったみたい。
今日のシーンはいいなあ。子供たちの追いかけっこ、砂浜の熱が足裏に伝わってくる気がします。
え、やる?コマーシャライザー。わ〜どの作品かなあ。楽しみ。
杞憂に終わって、よかったです(^-^;)
無事に3人、海に辿り着いて、
いよいよラストに近づいてきたのでしょうか?
2人が騒いでいるということは、クジラが見つかったんですかね。
続き待ってます(^-^)
こんばんはー。
いやーほんとよく休ませていただきました(笑)
お。
鯨の解体シーン&無料配布ね、それいただき( ´艸`)
子供を描くのは楽しいもんですね。でも難しいですわ。
でもさー。コマーシャライザーって面白いけど普及するのかなぁ?
shitsumaさん>
こんばんは。
やっぱり……^^;
そう思われてるだろうなーなんて思いつつ無気力状態でなんも書けませんでした(笑)
そうですね。やっとこさラストが見えてまいりましたよ!
目の前には競技場が!!!
待て次号!
六月の鯨6⇒5⇒4…1というように 何で?ですか
いゃ、けっこう連作モノの”逆読み”で、なんとなく話がつながってしまう…
ということに気付いたんですよ
で、この「六月の鯨」
逆読みも、けっこうイケますね☆
何か「面白いですよ?」
ちなみに アキラ を アラーキーとカン違い:汗
では、次の「六月の鯨5」へ