傘がない。
コンビニから出て傘立てに手を伸ばそうとしたのだが、ない。傘がないのだ。
わたしは途方に暮れる。店内にいた客はわたしだけである。すれ違いに出て行った客もいない。
店の前でたむろしているような若者もいなかった。いったいどうしたことだ。
わたしはあたりを見回してみる。
雨なのに駐車場の隅で掃き掃除をしている店員がいた。
しかもわたしのものらしき水色の傘を差しながら。
わたしは雨に濡れるのも気にせず、つかつかと店員の元へ歩み寄る。
「君、それはわたしの傘じゃないのかね」
「あ。すみません」
まだ十代とおぼしき彼女はぴょこりと頭を下げると、傘ではなくほうきをわたしに手渡した。
「そうそうこれこれ。これをこうやって差してな。さすがほうきだけに水はけがええわ。ってアホか」
わたしはついついノリ突っ込みをしてしまう。
彼女は一瞬固まったあと吹き出した。
身体をくの字に折り曲げたままくつくつと小刻みに震えている。
どうにも笑いが止まらないようだ。
「おい君、だいじょうぶか」
「はぁー苦しい」 顔を上げた彼女は制服の袖で涙を拭う。
「意外とノリいいんですね」
「そうでもないよ」
わたしは整った彼女の顔から目をそらし、咳払いをする。
「笑ったらおなかすいちゃった。あたし、もうバイト上がりなんですけど、ごはんでも食べにいきませんか?」
「ああ、かまわないが」
「やった」
彼女はわたしにたたんだ傘を押し付けると、店に向かって駈け出した。
毛先のなびいたほうきと水色の傘を手に、わたしはひとり駐車場に立ち尽くす。
いつのまにか雨は止んでいた。
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おじさん、今後も振り回されそう(笑)
梅雨時に爽やかな気分になれました。
明日は晴れるかな?
洗濯物が……パンツ、なくなっちゃうよぉ!(笑)
どもども。
こいつはおっさんの妄想話のたぐいですねw
それにしても今日の雨すごかったなぁ。
鴨川が濁流になってましたよ〜。
何とも軽妙なショートショート…ナイス・ショート☆
ティーンエージャーのバイトの女子店員とおじさん(?)との
会話の1シーンをフォトに撮れば、きっと…
ナイス・ショット☆
になったでしょうね
なんとなく不思議ちゃん的な女子高生?バイト店員と、ふつー?の
おじさん? の会話をショートショートにしたものみたいですけど、
いい味、出てるなぁ、と 読後の”なんとなく、ほんわか”感が
絶妙ですね
…ごはん、何を食べに行ったんやろねぇ ”水物(水炊き)”と良い海苔:ノリの
海鮮もの か、、、その後に
雨の後だから あめぇ、スウィーツでも? お味がよろし、、、おあとが、よろしいようで♪
車のカーステレオからは、あぁぁ、水色の雨〜♪ 私は行くの〜♪
こんなんでました