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手紙


 さみしい。彼女はひとことだけ記した手紙をガラス瓶に入れて海に投げた。
 ちょうどひと月後に返事が届いた。ガラス瓶の中に閉じ込められた黄ばんだ羊皮紙には、僕もさみしい。とだけ書かれていた。それから奇妙な形の文通がはじまった。だが二人は互いの置かれた状況をけして詮索しなかった。孤独な二人の間に在ったのは、ただその時々の心情を短く綴った手紙のやりとり、それだけだった。それだけで彼女は十分だった。誰かと会話するよろこびを彼女は子供の頃によくしがんだ砂糖きびのようにかみしめていた。ずっと自分以外の誰かの言葉に飢えていたのだ。彼の言葉は波という気まぐれな郵便配達員によって不定期に彼女の許に届けられた。彼女は彼からの手紙が待ち遠しくてしかたがなかった。毎日砂浜に出ては、日が暮れるまで郵便が届くのを待ち続けた。やがて他愛のない言葉のやりとりをくり返すうちに彼女の中でふしぎな感情が芽生えていった。それは満ち満ちてゆく月のように日に日に大きくなっていった。あなたはいま何処にいるの? けして会えないことはわかっていながら、ついに彼女はそう書いた。そう書いてしまった。彼女はガラス瓶を投げるか投げまいか、なんどもためらいながら、けっきょくそれを波に向かって投げた。ちょうどひと月後、彼からの返事が届いた。黄ばんだ羊皮紙には、彼女が漂着したこの島の地図と、百年前の今日の日付が記されていた。











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この記事へのコメント
ラストはドキッとしますね。
Twitterで読んだ気もしますけど、女性が心惹かれていく様子が描かれているこちらの方がさらに切なくて良いですね。
レイバックさんの『合図』も好きなんですけど、そっちはTwitterのほうが良いみたい(^^
好みもありますけどね。
Posted by ia. at 2012年04月09日 01:23
作品にコメするの、何ヶ月ぶりだろうw
本を読まなくなって、作品も作らなくなって、それでレイバックさんの作品に触れると刺激になります。
最後の一文、読んでいて「ぅおっ」と声に出して唸ってしまいました。

グダグダなコメ、失礼しました↓
Posted by たろすけ(すけピン). at 2012年04月09日 02:09
ia.さん>
こんばんは。
ありがとうございます。
そうなんですよね。
ついのべで書いたものをショートショートや掌篇に膨らませるのも、簡単なようでわりと難しくて、
やはりそのお話にちょうどいい長さというのがあるのかなー。などと考えさせられます。
「合図」は、結構いいネタだと思うので、もう一度書き直したい気持ちもありますね。
また時機が来たら、やってみたいと思います。
Posted by layback at 2012年04月10日 00:12
たろすけさん>
こんばんは。お久しぶりですねー。
もっともついったーではときどきお見かけしておりますがw

ありがとうございます。そう言っていただけてうれしいです。
自分も本が読めなくて、ブログも書けなくてという時期が長かったので、
お気持ちはわかります。いまも心の調子はいまひとつですけどね^^;
また少しずつでも読めて書けるようになるといいですね。
(執筆のリハビリについのべもいいですよー)
Posted by layback at 2012年04月10日 00:20
本当に会えたらいいな。
手紙だけのほうがいいのかな。
作者のみぞ知る。
Posted by もぐら at 2012年04月10日 18:27
もぐらさん>
こんばんは。
どうなんでしょうねえ。(作者もあまり考えてないw)
でも会えずにコミュニケーションし続けるというのも、
それはそれで、ロマンチックだと思いません?
ぼくはそう思うなぁ。
Posted by layback at 2012年04月11日 00:12

「羊皮紙」という”くだり”で、「何で羊皮紙で返信を?」と
 なるほど、時代がズレていた ということですね

 「FAX用紙」「コピー用紙」、または「パピルス(古代の文書みたいな:苦笑)」
 など だったら、ストーリー展開は、どうなったでしょうね

 あ! 思い付いたことが… 今度、この場を借りて一寸、試してみ…よう…か…


  −音信不通ー

Posted by Tweet & RT at 2016年10月17日 16:05
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