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「甲子園」


「ぜひウチのライブハウスに出演していただけませんか?」

俺達のバンドが関西での初ライブを終えた後、
小太りでヒゲを蓄えた中年男性が、控え室を訪れた。
その男が名刺を差し出しながら言ったのが、冒頭の台詞だ。

男が続けて言うには、

「ウチのハコは、アマチュアバンド界の甲子園と呼ばれています。
あなた方は東京からいらしてるので、ご存じないかも知れませんが、
関西のバンドマンで、知らない者はおりません」

なるほど、下地の無い関西で名前を売るには絶好の機会だ。
俺達は二つ返事でその誘いを受けた。

翌月のとある週末、俺達は機材を載せた車で、
慣れない関西の道に散々迷いながら、
やっとの思いで指定された住所に辿り着いた。

みすぼらしい小さなライブハウスの入り口付近では、
例のヒゲの男が壁に張り紙をしている。
だが、えらく貼りにくそうな様子だ。

なぜなら――

その壁は一面、蔦で覆われていた。












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この記事へのコメント
確かに甲子園と呼ばれるよね(笑)
彼らの立ちつくした姿が見えます。
Posted by ユリ at 2007年07月21日 01:52
まさに呆然自失の状態でしょう。
関西だとありえない話ではないかも(笑)
Posted by レイバック at 2007年07月21日 08:35
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