「ぜひウチのライブハウスに出演していただけませんか?」
俺達のバンドが関西での初ライブを終えた後、
小太りでヒゲを蓄えた中年男性が、控え室を訪れた。
その男が名刺を差し出しながら言ったのが、冒頭の台詞だ。
男が続けて言うには、
「ウチのハコは、アマチュアバンド界の甲子園と呼ばれています。
あなた方は東京からいらしてるので、ご存じないかも知れませんが、
関西のバンドマンで、知らない者はおりません」
なるほど、下地の無い関西で名前を売るには絶好の機会だ。
俺達は二つ返事でその誘いを受けた。
翌月のとある週末、俺達は機材を載せた車で、
慣れない関西の道に散々迷いながら、
やっとの思いで指定された住所に辿り着いた。
みすぼらしい小さなライブハウスの入り口付近では、
例のヒゲの男が壁に張り紙をしている。
だが、えらく貼りにくそうな様子だ。
なぜなら――
その壁は一面、蔦で覆われていた。
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彼らの立ちつくした姿が見えます。
関西だとありえない話ではないかも(笑)