俺はベッドサイドの灯りを消し、
先に寝ている妻の隣に身体を滑り込ませた。
一体いつからだろう。
俺たちの会話が噛み合わなくなったのは。
活発で男勝りな性格の彼女と結婚してから、そろそろ3年になる。
出産準備の為仕事を辞め、
外に出ることが減ってから、
彼女の気性は明らかに変化した。
ストレスからか愚痴が多くなり、
話しかけても上の空でいる事が増えた。
俺自身も仕事の忙しさにかまけて、
彼女の話にじっくり耳を傾ける事が減っていたのも事実だ。
このままじゃいけないとは分かっていても、
疲れて深夜に帰宅する毎日では心と身体に余裕が無かった。
二人が出会った頃は、どちらかが眠りに落ちるまで、何時間でも話し続けたものだ。
時には正面からぶつかりあい、時には腹をかかえて笑いあっていたのに。
また、あの頃のように戻れるのだろうか。
「恋愛と結婚は別物よ」
昔、女友達が偉そうに言い放った言葉が、脳裏に浮かんでは消える。
出るはずの無い答えを求めて彷徨いながら、
俺の意識は闇に吸い込まれていった。
* * *
「今日も遅くなりそうなんだ。先に寝てていいよ」
そう言い残して俺は、玄関のドアを後ろ手に閉めた。
マンションの階段を一段飛ばしに下り、外へ出る。
朝の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
行くか。
駅へと足を向けようとしたその時。
「忘れ物!」 大きな声がした。
2階の部屋の窓から彼女が顔を出していた。
いたずらっ子のように笑いながら。
「行くよ!」
勢い良く振り下ろされた彼女の右手から、
折りたたまれたハンカチが飛んできた。
ストライク。
ハンカチは見事に俺の手の中に収まっていた。
彼女は肘を曲げて拳を握り、ガッツポーズをして見せた。
その後、無邪気な顔で手を振り、ゆっくりと窓を閉める。
明日からはしっかりと、彼女の言葉を受け止めよう。
振り返らずに歩みだした俺の足先を、
朝日が眩しく照らしていた。
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心って一度すれ違ってしまうとダメなのかなと
思うときがありますが、拝読して希望がもてました。
読み終えた時に、光が見えているような物語との出会いは嬉しいもの。
これからも楽しみにしています。
リアクションがあると嬉しいものですね♪
これは僕にしては珍しく、
読後感の良いものを意識して書きました(笑)
またお暇な時にでもお立ち寄りください、
よろしくお願いします。
すれ違いそうに見えた二人にはまだやりとりするものがあったんですね。
こういう爽やかなのは癒されます。
こんばんは。ありがとうございます^^
こんないいお話をもっと書きたいのですが、
なかなか書けません・・・・・・・
やはり性格に難アリなのでしょうか?(笑)