行き付けのスナックを早めに切り上げ、
駅に向かって歩いていると、ある雑居ビルの窓が目に入った。
薄汚れたガラスから洩れる明かりは弱々しく、
建物の壁面をぼんやりと照らし出していた。
私はふらふらと吸い寄せられるようにビルに近付き、
気が付くと、店のドアの前に立っていた。
会員制 BAR 「LOST」
すすけた金色のプレートにそう書かれている。
踵を返し、階段を降りようとしたのだが、
なぜだか不思議と、後ろ髪を引かれるような感覚があった。
しかし会員制だ。
しばし逡巡する。
覗くだけでも覗いてみるか。
ぐっと息を吸い、思い切ってノックをしてみた。
「あのぉ……」
返事がないので、ほんの薄くドアを開け、中を覗き込んだ。
すると、黒いベストを着たバーテンがすっと歩み寄ってきた。
「失礼ですがお客様、当店は会員制となっておりまして。
どなたか、会員様からのご紹介でしょうか?」
「いえ、ちょっと外からこちらの窓を見て、気になったもので」
「基本的に、一見で新規のお客様はお断りしておりますが――」
男は私の風体をチラリと見て続けた。
「お客様が、私どもの条件に該当されるようでしたら、
特別に入店していただいても構いません」
「じょ、条件と言いますと?」
「当店では“何かを失われた方”のみ入店して頂いております」
男は小声になり私の耳元で説明を続けた。
「あちらのカウンター1番奥の男性は、
長年連れ添われた奥様を亡くされました。
真中のご夫婦は、可愛がっていた愛犬を亡くされたそうです。
手前の男性は、交通事故で片足を――」
……
私は突拍子も無い話を聞かされ、
思わず言葉を失った。
「条件を満たされたようですね。どうぞこちらへ」
男は呆然とする私の背中にそっと手を添え、
カウンターの空いている席へと案内した。
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と、思わずほっとしました…。
人間として大切なものをできるだけ
失わずに生きて行きたい。
でも、新しいものを得るかわりにそれまで
持っていたものを何か置いていかなくては
ならない…そんな時は寂しいですよね…。
色々な物を失っているのかも
しれないなぁ。大事なものは
失わないようにしなきゃ、
取戻せないものもありますもんね。
そして判断力。
いつも本物を手にしたいです。
敢えてフェイクもいいか、と思うことも
たまにはあるけれど(笑
僕はバリバリフェイクですが(笑)
基本ができていれば
土台がしっかりしていれば
フェイクを装って遊ぶことはできます。
レイバックさんは本物ではないかと
お見受けしますけど?
いえいえ本当、ダメダメなんですよ僕。
今後、精進いたします(力士の台詞みたいw)
おお。深い解釈ありがとうございます^^
そこまでは考えてなかったけど、
そういう裏設定にしておいた方が
深みがあるのでイタダキです(笑)
そうか、言葉をなくしたんですね。
鍵がない!とかケータイどこ?とか、うちはよくあります。違うか。
こんばんは。
こんなところにコメありがとうございまっす。
これ分かりにくかったですか??
まぁ単なる言葉遊びですわ(笑)
僕の場合テレビのリモコンどこ!?
ってのが非常に多いですねぇ^^;
こわいのは店を出た時、予想以上にお金をなくしてることだったり…。
こんばんは。
ダジャレですか!それも聞きたかったです(笑)
ミステリアスな酒場なので何が起こるか分からないですよねー^^;
BAR LOST… ここ、有名なBARですよね
一応、会員制になっていますけど、実は「来るもの拒まず 誰でもOK!」て
BARなんですよね
だって、人間だもの みんな何かしら人生で失っているさ by みつを
上記、合田 みつを の言葉通りだと思うんですよ
人、みんな、何かしらを失いながら「人生を過ごしていく」
純粋な心・若いハツラツとした気持ち・夢や目標 等々
ちなみに、この言葉を失った人は「失語症」になったんじゃぁないですか?
そして、このBARから出ていく客は お金 を失っていく
あ、飲み過ぎると「記憶」も失うか…
命を失う人は、さすがにい…たかもしれないですね、過去には
このコメントを書いている私は、コメントを書いている間に 貴重な時間 を失って
いるのに気付きましたよ まだ、このBARに入店さえ、していないのに