「お前早く行ってこいよ!」
「分かった、分かったよ!」
俺は仲間たちとスキー場に来ていた。
昼間はそこそこに滑り、夜は当然のように部屋での飲み会。
まったくコイツらときたら、滑りに来てるのか、騒ぎに来てるのか分かりゃしない。
酒席のゲームで負けた俺は罰として、
近くのコンビニ風の土産物店にアイスを買いにいくハメになったという訳だ。
まぁ、酔い覚ましには丁度いいか。
今はお月さんも隠れてるようだし。
俺には誰にも知られてはならない秘密があった。
実は。月を見ると……なんだ。
そう。有名なアレだ。
更にタチの悪いことに、満月のみならず全ての月に反応してしまう。
これは一族の中でも変わった例らしい。
さっき窓からチェックしたが今晩は大丈夫だ。
夜空には分厚い雲がかかり、月のかけらさえ見えない。
宿を出る時、オヤジさんに注意された。
「近頃はこの辺りにもクマが出るから気を付けるんだよ」
だって。
冗談まじりの口調だったが、あまり気分のいいモノでは無かった。
「なんの。返り討ちにしてやりますよ」
俺は軽口を叩くと、後ろ手に引き戸を閉め、闇の中へ足を踏みだした。
目が慣れると雪道は意外に明るい。
雪が光を反射するからだろう。
自分が雪を踏みしめる音だけが静かに響く。
目指す店の看板がもう見えようかというその時。
突然、脇の土手から黒い影が飛び出してきた。
「うわっ!」
黒く丸い塊は四足で踏ん張り、低く唸り声を上げながら俺の事を睨みつけている。
……どうする?
死んだふりはダメらしい。
登る木も無い。というか木登りが出来ない。
助けを呼ぶにしても、声を上げた途端に飛びかかってきそうな勢いだ。
こんな時に月さえ出ていれば、こんなクマ一匹、何とでも料理できるのに。
だが、分厚い雲からお月さんが顔を出す気配は無い。
長く感じられたが、実際には数秒後だろうか。
膠着状態に痺れを切らせたヤツは一唸りし、後ろ足で立ち上がった。
デ、デカい……。
両手を挙げ威嚇するその姿は想像以上にデカかった。
尖った爪。
するどい牙。
どんよりと光る眼。
俺はあとずさりしながら、ヤツの胸に目をやった。
☆ ☆ ☆
覚えているのはそこまでだ。
明くる朝。友人が言うには、
宿のオヤジさんと仲間たちとで、俺の帰りが遅いのを心配して、
探しに出るかと、ちょうど相談していた所に、
俺がフラフラと抜け殻のような状態で、帰ってきたのだそうだ。
しかし……
何で変身したんだ? 俺。
まったく思い出せなかった。
その日、滑り終えた俺たちが宿へ戻ると、
オヤジさんが話しかけてきた。
なんと。
フレッシュなツキノワグマの死骸が近くの道路脇で見つかったのだという。
無残にもバラバラの状態で。
ツキノワグマ……
そう言えば、あの胸のマーク……
ま。いっか。
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大神さん?
しかし毎回の切り口の違いには驚かされます。
一度頭の中を覗かせていただきたい('∇')
ワォ〜〜〜〜ン。
ってコラ!(;´д` )
ありゃ、バレちゃいました?
さすが鋭いですねぇ。
頭の中は・・・ほぼ空洞ですw