カンヌ映画祭。開幕式当日。
色鮮やかなブルーのドレスに身を包んだ彼女は、
ホテルに横付けされたリムジンに乗り込み、
監督、共演者らと共に会場へと向かった。
膨大な数の報道陣と見物客が視界に入ってくる。
リムジンを降りた主演俳優と監督は、さすがに場慣れしていた。
取り巻く群集の歓声にも、手を挙げて応えている。
続いて彼女がドレスの裾をたくし上げながら通路へ降り立った。
その時。
群集を割って一人の男が飛び出してきた。
セキュリティスタッフが制止する間もなく、男は彼女の懐に飛び込んでゆく。
その一連の動きはまるでスローモーションのようだった。
一瞬の静寂の後、どよめきと悲鳴が沸き起こる。
人々が慌てて動きを取り戻し、彼女に駆け寄り、男を引き剥がした。
が、既に彼女の顔に生気は無い。
ナイフが突き刺さり、抉られたその胸からは、鮮血が溢れ出していた。
彼女の頭はうなだれ、アスファルトは真紅の絨毯のように染まってゆく――
☆ ☆ ☆
『いいシーンだよネ。スローな映像がスタイリッシュで、エミの魅力もよく出てる』
『 一番大事なシーンだったから緊張したけど、上手く演れたと思うわ』
『いや、本当にエミはよくやってくれたよ』
会場へ向かう車内で彼女は、監督らとクライマックスのシーンを振り返って談笑していた。
数分後。
リムジンはレッドカーペットの敷き詰められた通路の前で静かに停車した。
今日の主役は彼女だとばかりに、監督にエスコートされたエミが通路に降り立った。
その時。
群集を割って一人の男が飛び出してきた。
唖然とする人々が止める間もなく、男はエミに向かって突進してゆく。
だが、彼女の懐に飛び込もうとする寸前。
男はセキュリティの大男達に取り押さえられた。
エミは目を見開き、男の手元に目をやった。
男の手に握られていたのは――
花束だった。
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またヤラレタ。
映画が好きなのでその映像が目に浮かびました。
面白かったです。
女優にとっては一瞬のサスペンスですね。
後味が良くて、読んだあとも映像が頭の中に残りますね。
この空白の行をスクロールする数秒が、すごくもどかしいです!
面白い♪
もう一度同じシーンが繰り返されるのかなあと思ったら裏切られました。ひっかかった自分が悔しい。
削ぎ落とされた無駄のない文章は見習わなくてはなりません。
また来ます。
ちょっと仕掛けを試してみました。
自分では効果が分からないのですが、
騙されていただけたようで、
良かったです^^
ありがとうございます。
読後感良かったですか?
とりあえず血みどろにならなくて
良かったです(笑)
Webだとそういう仕掛けも
使えるので有利ですよね^^
間合いを計れるので、
ズルイっちゃズルイのですが(笑)
いらっしゃいませ^^
スピード感を意識すると、
どうしても短い文になりますねぇ。
速い分味わいが無いので、
複雑な気もするのですが(笑)