今日は夜の報道番組に出演する日だ。
役割はコメンテイター。
作家でありながら、フレンドリーでソフトな雰囲気。
幅広い年代の女性の心を掴む、爽やかな笑顔と、カジュアルで上品なファッション。
バカな若者たちにも共感させる分かりやすいコメント。
そして、時には軽くボケを挟み、場を和ませる事も肝要だ。
白髪混じりのキャスターの残尿感溢れるツッコミや、足が綺麗な以外、何のとりえもない女性アシスタントの的外れな相槌には、まったく辟易するが、この手のテレビ出演のおかげでお茶の間に浸透する優しくて、頭のいいお兄さん的なイメージはなんとも捨てがたかった。
その虚像ともいえるイメージで、(実際はかなり辛口で腹黒い)
作品の売り上げが伸びているのも事実なのだ。
これで今回候補となっている直木賞を受賞すれば……。
タクシーの後部座席で、窓の外へ向けた目線が思わず遠くなる。
おっと。いかん。
テレビ局へ着いたようだ。
私は口元に伝いそうになった涎を袖でぬぐうと、
そびえ立つビルの前に、颯爽と降り立った。
出演者控え室に至るまでの通路で、数人の関係者に話しかけられる。
「○○さんおはようございます」(朝でもないのに)
「今日もお洒落ですねぇ」(聞き飽きたよ)
「僕にもファッション指南してくださいよぉ」(まず整形しろ)
かけられる言葉は、いつもそんな調子だった。
私が心の中で突く悪態もワンパターンなのだが。
(もちろん表面上は優しげなスマイルだ)
自分の名前の書かれた控え室に辿り着き、
鏡の前のイスに静かに腰を下ろした。
メイクの人間が来るまで、まだしばらく時間がありそうだ。
私はロビーで買った新しいタバコのパックの封を切り、抜き出した一本を口の端に咥えると、色あせたジーンズのポケットをまさぐり、見つけ出したオイルライターで火を点けた。
鏡に映る自分の顔に向かって、ゆっくりと煙を吐き出す。
今日はどうも番組に集中できそうにないな。
明日の直木賞の選考会が気になってしょうがないのだ。
明晩はスケジュールを空にし、自宅で編集者達と電話待ちの予定だった。
今回で三度目のノミネートだ。
今年こそは……。
賞の事を考えると、心なしか、胃がキリキリと痛むような気がした。
そして、明くる日の夜 ――
トゥルルルルルルル、トゥルルルルルルル
私とマネージャー、そして編集者が二人。
男四人で待つ、自宅のリビングで、
ピリリと張り詰めた空気を切り裂くように、電話のベルが鳴った。
私たちはそれぞれに目を合わせ、誰が出る? と視線を交錯させ互いを牽制したが、結局、鳴り続けるコール音にしびれを切らせたマネージャーが、渋々と立ち上がり、受話器を取った。
メモを取りながら相槌を打つ彼の横顔からは、何も読み取れない。
やはり、今年もダメだったのか……。
気付かぬ内に止めていた息をホォっと吐き出す。
両膝に手をやり、立ち上がろうとしたその時。
マネージャーが受話器を下ろし、こちらを振り返った。
「先生! 獲りました!」
その場にいた全員の動きが止まり、18畳のリビングに息を呑む音が響いた。
彼の口からこぼれ落ちそうになっている続きの言葉を、一同前のめりになって待つ。
「ベストジーニスト、受賞です!」
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今回は爆笑ワードがちりばめられててお腹いっぱいです(*´д`*)ノ
おいしすぎます!
オチを読んで「ザマアミロ」って思いました(笑)
またダマされました。
伏線が張られていたのに・・
ちくしょぉおおおおっ!
賞獲りも大変なんでしょうね…。
爆笑ワードありましたか??(笑)
話の途中に小ネタを紛らわせるのが
なんとも楽しいですよね^^
毒っぽいセンセイですが、
イマイチ成功しきれてない感じが、
気の毒な感じもします^^
ザマアミロって!(笑)
今回の伏線で分かる人は
きっと少ない・・はずです(笑)
次回は答えを解読してくださいね^^
最後、彼らは脱力するのか?
新喜劇的にコケるのか?
自分で想像しても楽しいです。
藍さんの中では、
冷たい風が吹いた感じかな^^
先生は、東野さんをちこっと想像してしまった。(腹黒いかどうかは知らないけど、ちゃんと射止めたし)
これからは、キムタク並みに名誉ベストジーニスト(こんな名前だっけ?)目指して頑張れ先生w
でもその前の共演者を比喩するシニカルな例えが面白くて、本当に唸らせられました!
見習いたい(>_<)
訪問ありがとうございます^^
東野さんはいい人っぽいですよねー、
実は他にモデルはいます。
あれは永久ベストジーニストですね、
思わずググっちゃいました(笑)
お。読めました???(笑)
そうでしょー!
あの表現は下品でお気に入りです。
(人間性がバレますね^^;)
場面はどのようにも描けますね。楽しい♪
私がそこに感じた風は…冷たいというよりは
もう少し湿っぽい…(笑)哀愁でしょうか。
哀愁の風。ハマりそうですね(笑)
色々想像していただいて嬉しいです^^
読みがはずれたわい。
そういえばお洒落ワードちりばめてあったな…
レディが舌打ちしない!(笑)
伏線しっかりあったでしょ??^^
いるんですか!?モデル?
だれ?だれ?
でもネタバレしちゃうと続編とか、書きづらくなっちゃいますよね(笑)
そうですねぇ、ではイニシャルで(笑)
モデルはI・Iさんです。外見のイメージ
だけですけどね、性格は完全な創作です^^;
もしかしてそうかな?という感じはありました。
テレビに出演されていますしね。
でも、何度も落選というので、
I.KさんやK.Kさんも疑ってしまいました(笑)
分かりましたか?さすがですねぇ(笑)
K.Kさんはちょっと違うかなぁ、
でもI.Kさんの線はアリかも!^^
わたしはいまこんなところにいます♪(レイバックさんの過去の作品のオススメのあたり・・)
や〜面白かったです!
作家さんの心のなかの悪態つぶやきとか・・
電話が鳴って一同前のめり・・・
スクロールした先には・・ベストジーニスト賞か〜
いつもスクロールの先が→→→ (考えて考えてこうなるだろう・・・)→→→でも、ちがってて・・・ハマリました。
「紫陽花」も好きです♪
レイバックさん、こういうしっとりとした情景を書いてもすごいイイ♪デス。
こんばんは^^
うわー過去作にコメ貰えるのって、
ほんとに嬉しいんですよね。
ありがとうございます♪
これは作家のブラックな性格が
ポイントですね(笑)
しかし読み直すとヒドイなぁ、
また少し改稿したいと思います^^;
紫陽花は少し気取ってますよね(汗)
そう考えると納得の結末ですよね(笑)
モデルの作家さんを想像しながら書くと
スラスラ〜っとかけました^^