敦士は疲れきった足どりで、階段を昇っていた。
残業残業残業残業。
踏み出す足のリズムに合わせるように、何度も呟いてみる。
こんな生活が、いったい何日続いているのだろう。
もはや数えるのもやめてしまっていた。
しかし、この鉛のように体にのしかかる疲れも、
もうすぐ1歳になる藍子の表情を見ていると、
その間だけは忘れてしまうから不思議なものだ。
古い団地の階段を昇り、ドアの鍵を開ける。
「ただいま」
小さな声で言ってみるが、返事は帰ってこない。
靴紐も解かず、かかとを擦り合わせるようにして靴を脱ぐ。
薄暗いダイニングを抜け、明かりのついたリビングへと歩を進める。
茶色い皮製のソファには、生江が呆然とした表情で座っていた。
「ただいま」
「……」
返事はない。
「おい。洗濯物も畳まずになんだよ」
「……」
やはり無言である。
さすがに違和感を感じた敦士は、
黙り込んだままの生江の視線の先を追ってみた。
「あ、藍子……?」
ボロ布の様に変わり果てた藍子の姿が目に飛び込んできた。
「おい! 藍子っ! 藍子っ!?」
「もう、疲れちゃったの……」
ぼそっと敦士の背後で生江がこぼす。
「お前、なんて事をするんだよ!
大事に大事に育ててきたのに……、
何を考えて、こんなひどい……」
最後の方は声にならなかった。
敦士はデニムを胸に抱き、色落ちの具合を確かめる。
それは、もう昨日までの藍子では無かった。
嗚咽と共に涙がこぼれ、生地に小さな丸い染みがぽつりと残る。
「お前、オレのジーパンは洗うなって、あれほど言っただろうがっ!」
「あんた、お母さんに、お前ってなんやの!?」
「オレの藍子が……」
「あんた、そのジーパン、えらい匂いしてたわ!
洗ってあげたんやから少しは感謝しなさい!」
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タンスにゴンザレスと申します。
ジーパン洗わないで可愛がる人、いますよね。
面白かったです。
ショートショートは凄く好きな分野なので見る目も少し厳し目になるんですが、
レイバックさんはレベルが違いますね。
素晴らしかったです。
全作品一気読みさせていただきました。
これからちょくちょく来ます。
私もまだまだです(笑)
一時期501を育てていた私は彼に強く共感。
コメントありがとうございます^^
昔は僕もジーパンを妙に
大事にしてましたねぇ(笑)
たくさん読んでいただいたようで
ありがとうございます。
めちゃくちゃ嬉しいです。
また遊びに来てくださいね♪
いま高校生を扱った読み物を書いているのですがGパンネタ書けなくなった。
そういう意味でもとても悔しい。
やっぱり読めてました??
常連さんにはバレるかな・・・
と思ったんですけどね^^;
僕も学生の頃はGパン育てて、
よく母親とこんな会話してました(笑)
あれねぇ、ほんとに母親ってヤツは
良かれと思ってやってるんでしょうが、
腹立つんですよねぇ(笑)
でもね正解は、洗ったほうがいいんですよね
ジーンズって。洗わないと生地の目が緩んで、
破れやすくなるので。その事実を知ってから、
母親と和解したレイバックでした。(←大げさ)
破れやすくなるので。
へえへえへえ。(へえボタン3つ)知らんかった。
久々のホラーが来たかと思って構えちゃいました(*´д`*)アハァ
へぇボタンありがとうございます。
トリビアや空耳、ボキャ天系大好きです(笑)
わざとねっとりと前半を書いてみました(笑)
ホラーは読むのは好きなんですけど、
いざ書くとなると難しいですよね^^;