「なぁ。なんかこの式おかしくねーか?」
「なに言ってるのよ、日本の伝統に乗っ取った立派な式じゃないの。
ウェディングドレスを着て、教会で式を挙げるのも女の憧れだけど、
神前式も気が引き締まる感じがして、なかなかいいもんじゃない」
私の説明に納得するでも無く、
明はまだ首をかしげて、鼻をひくひくさせていた。
「いや、なんかおかしな匂いがするんだよなぁ」
私はその無神経な物言いに蓋をするべく、
ヤツの鼻を思いっきりつまんでやった。
「んが、んが、んオイ! ヤメろって!」
この人は悪い人じゃないんだけど、
時々デリカシーの無い発言をするもんだから、
こういうフォーマルな場では気が気では無かった。
確かになぜだか、勘の鋭いところはあるんだけどね。
私は勤め先の後輩の結婚式に出席していた。
丁度身体の空いていた明も連れてきたわけだが、やはり失敗だったか。
新婦はキリリと吊り上がった目元が涼やかで、
肌の色が透き通るように白く、社内でも目を引く美人だった。
仕事以外のプライベートで絡んだ事はほとんど無かったが、
どことなく陰のある彼女の雰囲気は、
何か重たいものを背負っているようにも感じられた。
周りに知られてはならない何かを……
晴天の中、式は滞りなく順調に進んだ。
最後に写真撮影を行うという事で、出席者全員が、中庭へと案内された。
見事に整備された日本庭園だ。
敷き詰められた砂利を踏みながら、全員が所定の場所へ揃う。
カメラマンと進行役の女性の指示に従って整列させられる。
ざわつきが収まりかけたその時、私の頬を冷たい雫が叩いた。
雨?
周りの者も手のひらを上に向け、空を仰いでいた。
まぶしく太陽が照っているにも拘わらず、ポツポツと小さな雨粒が落ちてきた。
「皆さーん! 急ぎますよー! カメラを見てくださーい」
カメラマンの急かす声で出席者達は我に帰った。
残り数枚分の写真撮影が、駆け足で行われた。
「では、これで集合写真はラストになりまーす」
皆の視線がレンズに集中し、最後のシャッターが切られる。
コーン。
シャッター音に被るように、中庭の隅の方から、竹が石を打つ乾いた音が響いた。
きっと誰も気付かなかったのかも知れない。
だが、新郎の真後に立っていた私は見逃さなかった。
彼の肩がその音に過剰に反応し、震えていた事を。
帰りの電車に揺られながら、私は考えていた。
あの写真には、一体何が写っているのだろう?
なんて、まさかね。
考えすぎの自分がおかしくなった。
隣に座る明が、首をかしげながら口を開く。
「なぁ、なんかおかしな式だったよな?
あの二人ってもしかして、人間じゃないんじゃ……」
私は明が全てを言い終わる前に、ヤツの頭をはたいた。
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この作品のカップルもいい味出してますね〜
続編に期待です☆
ちゅうて狐の嫁入りですね。
天気雨の時はそんなことに思いを馳せます。
だけど人間を招待してくれるとは知りませなんだ。
わたしこういうほんわかとした言い伝えとか子どもたちに伝えてなかったかもしれない。反省反省。
実際にどうなのかは分かりませんが、
ちょっと不思議なお話を書いてみました^^
続編は・・・あるかな??(笑)
コ〜ン=キツネ!それは無意識でした^^;
ただの鹿脅しのつもりだったのですが、
伏線の神が降りてたみたいです(笑)
今の子供達も絵本やら、国語の教科書やらで
昔話や民話に触れているのかな??
なるべく子供の世代にも伝えていきたいですよね☆
く・く・悔やしーっ!