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「警告」


クオォーン

FD3S。黄色のRX−7が夜の闇を切り裂いてゆく。

このロータリーサウンドがタマらんぜ。

アクセルをギュッと踏み込む。

ブワッ ググッ

途端に強烈なGがかかり、

身体がバケットシートに押し付けられる。

やっぱりコイツは最高だ。

世界で唯一、MAZDAが量産するロータリーエンジンの滑らかな吹け上がりは官能的で、

そして何よりも、理想的な前後の重量バランスから生まれる、優れた旋回性能は、

今でも峠でトップクラスの実力を誇っていた。

ケイスケは毎夜この峠に走りに来るのが日課だった。

いつものように1本目はウォーミングアップだ。

ハーフスロットルで流して走った後、徐々に全開に近いレベルで攻めてゆく。

これが3本目か。

頂上を駆け抜け、下りで一番長いストレートに差し掛かる。

次の右コーナーの進入。

限界までブレーキングを我慢してみろ。

ケイスケは自らに課題を出す。

ぐっとアクセルペダルに体重を乗せてゆく。

すると、ストレートの真中辺りで、前方に光が見えた。

ちっ。対向車か。

ケイスケはふっと右足の力を抜き、加速を弱めた。

近付いてくるコーナーから顔を出したのは――

ん? FDか?

そいつはミズスマシのように滑らかにコーナーをクリアし、

重力を微塵も感じさせぬ勢いでストレートを駆け上がってくる。

ヘッドライトの中、全貌をあらわにする鮮やかな黄色のボディ。

それはケイスケの乗るマシンとまったく同じ仕様に見えた。

まぁ、峠でFDは珍しくないのだが、しかし……

すれ違う瞬間。

ケイスケは目を疑った。

あの黄色いFDの運転席に座っていたのは――

オレ?

じゃないのか!?

一瞬、確かに目が合った。ケイスケそっくりの男と。

コンマ数秒に過ぎなかったが、見間違えではない。

咄嗟にバックミラーを仰ぐ。

ただ背後の闇が映るのみだ。

もう消えたのか!?

ありえない。速過ぎる。

あっちは上りだぜ……。

ケイスケの脳裏に残像が蘇る。

こちらを向き、険しい顔で男は何かを叫んでいた。

自らの口を動かして反芻してみる。

『あ・ぶ・な・い・死――』

そこでヤツは見えなくなった。

通り過ぎたというより、消えたという表現の方が近い。

あれはオレへの、警告だったのか?

ケイスケは再び記憶を呼び起こそうとする。

うわっ!

我に返ると、目の前にコーナーが迫っていた。

くっ、ブレーキングポイントはとうに過ぎていたが、

ケイスケはドンッと右足でブレーキペダルを踏み、ドリフトの体勢に入った。

タイヤが大きく悲鳴を上げ、FDはノーズを支点に弧を描く。

ガードレールギリギリのところをリヤバンパーがかすめる。

黄色のFDに気を取られ、アクセルを緩めていたのが幸いした。

なんとかコーナーをクリアしたものの。

息つく間もなく、今度は対向車だ。

体勢を立て直したケイスケの内側を、

片目だけヘッドライトを点けた大型トラックが、ヨタヨタと通り過ぎていく。

もし、あの時、そっくりさんが通らなければ、

右コーナーをインベタに攻めてたオレは、

センターラインを割ってトラックに突っ込んでいたかもしれない。

ケイスケの背中に冷たい汗。

警告ありがとよ、そっくりさん。

今度こそホッと息を吐き、ケイスケは数百メートル先の退避スペースにFDを停めた。

ふぅ。

危なかったなぁ、お前。

ケイスケは愛車に話しかける。

ハンドルに両肘を掛け、重ね合わせた手の甲に額を載せた。

コン

ボンネットに乾いた音が響く。

小石か?

ケイスケが様子を見――

ドンッ

ゴォキッ

グシャッ

FDのルーフには、直径2メートル程もある落石がメリ込んでいた。

ケイスケは、走っていた。

黄色いFDを駆って。

いつも以上にエンジンの吹け上がりが軽い。

到底上りとは思えないスピードで、左コーナーをクリアする。

直線だ。行け。

ケイスケは右足に力を込めた。

が、ペダルの感触が無い。

なのにFDは悪魔のように急勾配のストレートを駆け上がる。

対向車だ。オレだ。オレのFDだ。

気をつけろ。必死に口を動かそうとする。

近付いてくる。オレのFD。

オレとオレの目が合う。

オレたちがすれ違う瞬間、やっと言葉が出た。

「危ない! 石――」

言い終わる前に全てが闇に包まれる。

最後の力を振り絞り、ケイスケは後を振り返った。

FDの赤いテールランプが残像を置き土産に、コーナーの向こうへと消えていく。

「――石だ! 落石に気を付けろっ……」












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この記事へのコメント
いつも楽しく読んでます!
blogランキング1位を目指してくださいね(^-^)/
応援してます!
Posted by piroko at 2007年10月05日 10:17
pirokoさん>
ありがとうございます^^
1位目指しますよ〜〜〜!
何年かかるか分かりませんが(笑)
Posted by レイバック at 2007年10月06日 00:21
こんばんは。
上手いなぁと思いました。
交錯する二人の自分、
『直径2メートル程もある落石がメリ込んでいた。

 ケイスケは、走っていた。』
この「切り換え」にシビれました。
Posted by タンスにゴンザレス at 2007年10月07日 00:39
クオォーン カコンクオォンカコーンクオオォ〜ン

いいですねえ。男性が書くとハードボイルドの世界です。
『頭文字D』みたいですげェかっこいいです。

漫画の実写映画版を無料動画でやってまして
期待しないで観たらすごくおもしろかったんですよ。それ思い出しました。

この文章の長さでスピード感を殺さずに読ませるのは
難しくなかったですか?
あ・いけない。つい読んだ感想よりメイキングに
関心がいってしまいました。

人気プログランキングベスト10入りオメデトー!
Posted by つる at 2007年10月07日 01:01
ブログ村アクセス悪いので
今になりました
村ポチしたよー
こちらも、宜しく
Posted by 槍まくり寛助 at 2007年10月07日 15:58
ゴンザレスさん>
こんばんは。ありがとうございます^^
やはりその場面の転換部分以降が、
一番ノッて書けた気がします。
サっと場面が切り替わる感じが
読み手に上手く伝わると良いのですが・・・
Posted by レイバック at 2007年10月08日 00:42
つるさん>
こんばんは。
ハードボイルドは好んでよく読んでいたので、
かなり影響は出てると思います(笑)
お察しのとおり、モロ頭文字Dネタですね。
黄色のFD&ケイスケ(原作:高橋啓介)も
そのままですし、ファンの方には怒られそう!
うーんどうなんでしょう?
スピード感が上手く伝わってると嬉しいです。
(特に幽体離脱以降のシーン)
これは一応ドッペルゲンガーと違いますが、
例のお題から妄想して思いついたお話です。
てな訳でつるさんのお陰?(笑)
ありがとうございました♪
Posted by レイバック at 2007年10月08日 00:49
寛助さん>
いつもありがとうございます^^
今からそちらに伺いますね♪
Posted by レイバック at 2007年10月08日 00:50
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