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「神の目」



男が右腕を強く引いた。

闇夜に雷鳴のような音が轟く。

高速で回転するチェーンソーの歯が、

太い胴体に吸い込まれてゆく。

静かに佇んでいた大楠は、

目覚めたようにぶるりとその巨体を揺らすと、

チェーンソーを粉々に噛み砕いた。

男は吹き飛ばされ意識を失った。



遥か遠い昔。



何体もの巨木が大地を揺るがした。

彼らは瘤の浮き出たその太い腕で、

地球を滅ぼそうとする悪意と戦った。

戦いは長引いた。

雷に打たれ、台風になぎ倒され、

多くの同志を喪い傷つきながら彼らは戦い続けた。

緑の大地と、そこに住む全ての生命の為に。

彼らは戦いに勝利し、

大いなる悪意をその身中に閉じ込めた。

全てのエネルギーを使い果たした彼らは再び大地に根を下ろした。

人々は彼らの身体にしめ縄を巻き、御神体として祀りはじめた。

以来、彼らは言葉を発する事も無く、ただそこに居続ける。

何百年、何千年と。

雨に身を洗い、風に葉をなびかせながら。

巨木は目を閉じながら静かに見つめている。

自らが救った人々の行いを。

この世界の行く末を。










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この記事へのコメント
木に神が宿る。
昔の人が感じ、信じてきたように、
現代の私たちも同じようにそう感じるのに、
一方でその木を切ったり、環境を悪くして枯らしちゃったり。
人間って、わがままですね。。。
Posted by naena at 2007年12月18日 12:47
スケールの大きさを感じました。
ちょうどロードオブ・ザリングの
二つの塔を見たばかりなので
エント(木の精)をイメージしました。
たまにはこんなお話もいいね。
Posted by つる at 2007年12月18日 22:43
naenaさん>
こんばんは。
ほんと大きな木には
ものすごいエネルギーを
感じますよねー。彼らもきっと
森林が破壊されてゆくのを
悲しく思ってるんじゃないかな。
等と考えて書いてみました^^
Posted by レイバック at 2007年12月19日 00:34
つるさん>
こんばんは。
樹齢千年クラスの巨木の写真集を
見ましてね。写真からもものすげぇ
霊気というか力を感じたんですよねー。
このテーマでファンタジー長編を
書けたらなぁ。筆力が欲すぃ(笑)
Posted by レイバック at 2007年12月19日 00:37
レイバックさん、こんばんは♪
壮大なロマンみたいなものを感じました☆
何百年も生きている木々が俯瞰する
時間のスパンの大きさに、
めまいがしました☆
不思議で、果てしない感じの
読後感です☆
Posted by らに〜た at 2007年12月19日 01:38
らに〜たさん>
こんばんは♪
いやーほんと何百年何千年と
生きてる木ってスゴイですよねぇ。
絶対何かが宿ってるような気がしません??
妄想を膨らませちゃいました(笑)
Posted by レイバック at 2007年12月20日 00:17
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