鍵を差し込んで気付いた。
なんだ、開いてるじゃないか。
沖縄での自分探しの旅から帰ってきた私は、
用なしだった鍵をGパンのポケットにしまい、
恐る恐る事務所のドアを開けた。
「おかえりなさーい」
今、若い女の子に大人気のモデル、カニちゃんの笑顔が私を出迎えた。
「なんだ。居たのか」
愛想の無い私の声を非難するように、
カニちゃんの笑顔がデスクの上に投げ出された。
女性向けファッション雑誌の陰から現れたのは、従妹の沙織の膨れっ面。
カニちゃんほどではないが、こちらもなかなか可愛い顔をしている。
ただし、笑っていればの話だ。
「なんだは無いでしょ。なんだは」
沙織は腕組みをして革張りの椅子にのけ反り、
デスクの上に黒いタイツに包まれた両足を載せていた。
まだ今日は靴を脱いでいるだけマシだ。
こいつは顔は可愛いくせにとことん行儀が悪い。
まったく親の顔が見たいものだ。
「ただいま。こんな遅くまで居なくていいんだぞ」
「帰ってきて事務所が無人だと寂しいと思って待っててあげたのに」
「それはそれはありがとう。ほらお土産だ」
デスクの上に紙袋を置いた。
「出たっ。ちんすこう!もうちょっとマシな物無かったの?
泡盛の古酒とかー、琉球ガラスとかー、ラフテーとかさー」
「ラフテーなんかどうやって持って帰るんだよ」 ※ラフテー=豚角煮
「バカ。冗談に決まってるじゃん。
そんなんだから彼女出来ないんだよ」
「お前がいるじゃないか」
「・・・・・・え?」
「冗談に決まってるじゃん」
「ハブに噛まれて死んでしまえ!」
いくら可愛いと言っても、
従妹だからどうしようもないのが惜しい。
いや、その気になれば結婚もできるのか?
妄想はやめておこう。
沖縄への旅行中、
大学の四回生で就職も決まり暇を持て余している沙織に、
事務所の留守番を頼んでいたのだ。
もちろんボランティアではない。バイトだ。
時給1000円。
ぼったくりで訴えたいぐらいだ。
「さあ、家まで送ってってやるからコート着ろよ」
「礼兄ちゃん、その前に飲みに行こっか」
「今日は疲れてるからダメです」
「ケチ」
飲みに連れて行けとごねる沙織にコートを着せ、事務所を出た。
「そーだ。礼兄ちゃん、あっちでニュース見た?」
駐車場に行く途中、沙織がいたずらっ子の様な表情で尋ねた。
「いや安宿でテレビが無かったしな、自分探しの旅に――」
「ここで事件があったんだよ!」
最近の若者は人の話を最後まで聞かない。
「事件?」
私と沙織の目の前には閉店したコンビニが横たわっていた。
真っ暗な駐車場の周りに立ち入り禁止のトラロープが張ってある。
「そう!しかも殺人事件よ」
「本当か?この店で?」
「うん。しかも本格推理小説みたいなんだから」
本格推理?
女子大生の台詞とは思えない。
☆ ☆ ☆
「表の自動ドアも裏口も施錠されていた。
しかもピッキング、窓割りの痕跡もないと。
つまり密室殺人だった。そういう事か?」
「ううん。裏口の鍵は開いてたらしいよ」
「じゃあ密室じゃないじゃないか」
「密室だとは言ってないじゃん。
本格推理小説みたいって言ったんだよ」
「なんだそれ?」
私は外国人のように、両掌を上に向け肩の高さに挙げた。
沙織が私の頭上を指差す。
私がそのまま「雨?」と言い出しそうな恰好で上を見上げると、
ひっそりと電気の消えた看板が。
サークルK
「ん? サークルK?
・・・・・・
くそ。 そういう事か」
「やっと気付いたの?」
「閉店したサークルK。つまりクローズドサークルけ?」
「遅いよー。礼兄ちゃんもまだまだだね」
「お前、推理小説の読み過ぎだよ」
(こんなオチじゃ読者が殴りこんでくるぞ)
※クローズドサークル
ミステリ用語としては、何らかの事情で外界との往来、連絡が断たれた状況、
あるいはそうした状況下でおこる事件を扱った作品のこと。
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タグ:ショートショート
探偵さんと沙織の掛け合いが面白いです。
沙織もまんざらミステリーが
嫌いじゃないみたいだし
いっそここに就職して
二人で事件なんて全然解決しない
というストーリー読みたいです。
なんかそんな探偵いてもいいかなって。
そうそう昨日の記事「揺れる」なんですが
もしかしたら
このあと思いっきりロマンチックに
いくための逆フリとみました。
期待してます。チガウ?
本格ファンにあるまじき失態です。
完敗ですわ♪
きょうは、クローズドサークルとラフテーに解説が入ってたりして・・・レイバックさん親切^^
迷探偵レイバック氏、ちゃんと事務所もってるんですね☆
カニちゃんが表紙飾ってたり・・≧ー≦
わたしも、レイバック氏と
後にアシスタントになりそうな予感の沙織ちゃんの掛け合いが面白かったです☆
「シリーズ化に期待してます!」と書いたら、
本当にシリーズ化されて驚き!
しかも若い女性アシスタントまで登場とは!
ハードボイルドな感じでいいですね〜。
ますます次の展開に期待が持てますね!
クローズドサークルけ、笑いました!
シリーズになったんですね。
もしかして最終回は発表済みの「ハードボイルド」だったりしませんか?
こんばんは。
この二人の会話も書いてて楽しかったです。
事件なんて全然解決しない探偵。
それいいすねwいいアイデア貰っちゃった。
またなんか思いついたら書いてみますね。
>思いっきりロマンチックに
いくための逆フリ・・・・・・
僕の思考経路が読まれてますねぇ(笑)
でも今回は何も考えてませんでした。
しっとりとしたクリスマスのお話も
書きたいけど今の所ネタなしですわ^^;
こんばんは。
たしかiaさんのトコかな?
クローズドサークルって言葉を目にしたので、
そこから連想して組み立ててみましたw
本格って書くの難しいだろうなぁ^^;
こんばんは。
たまには読者に優しいところも見せておかないと(笑)
っていうかクローズドサークルなんて
本格ミステリファンしか知らない単語ですもんね^^;
うーん沙織をアシスタントに・・・
それイタダキ!w
こんばんは。こないだはshitsumaさんに
むちゃ振りされましたからねぇ(笑)
ごり押しで続編に仕立ててみました^^
ハードボイルド語りはマスターしたいんですよねー。
ついつい笑いに走ってしまいがちなのですがw
こんばんは。
う。
七花さんも僕のやりそうな事を読んでますよね(笑)
でも今回この話を書いてキャラに愛着が沸いたので、
殺すのは忍びないですわー^^;
みんなで、面白いショートショート創り上げてく感じがいいですねー。
オチはギャグなんけ?
でしょー?皆さんのコメが鋭いから、
書くほうもなかなか大変です(笑)
でもコメのお陰で気付くことも多いので、
本当に感謝してますわー^^
やらりた〜クローズドサークルけ。
サンクス。
なんちて。
ほんっとに下らないネタでお恥ずかしい・・・^^;
またまたーw
・・・
上手く返せません(爆)