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「夕焼け」6



夕日に照らされた古い木造アパートの戸口で、

優介は立ち尽くしていた。

あの日以来昼夜を問わず、

忌わしい記憶と答えの出ない疑問が

優介の頭の中を支配し続けている。

あれは放火だったのか?

それとも――

「妹尾さん?」

優介は我に返った。

「実は、これなんです」

彼女はバッグから一枚の画用紙を取り出していた。

「それは?」

優介が尋ねると、彼女は優しく丸めた紙を自らの胸に当てた。

「正直言って、これを妹尾さんにお渡ししていいのか迷いました。

私の胸の内だけに留めておくべきなのかも知れない。

でも、これが優花ちゃんからお父さんに向けた

最後の言葉だとしたら・・・・・・

やはりお渡ししておかなければと思い、今日伺ったんです。

内容は私しか知りませんし、園内の誰にも相談していません。

遅くなって本当に申し訳ありませんでした」

彼女は一つ一つの言葉を噛み締めるようにそう言った。

「これは丁度、あの日の前日に優花ちゃんが書いたものです。

父の日にそれぞれが持ち帰り、お父さんに渡す予定でした。

それが私の手で渡す事になってしまって、本当に――」

最後は言葉になっていなかった。

彼女は化粧が乱れるのも気にせず手の甲で目元を拭った。

優介は黙ったまま画用紙を受け取った。

広げた画用紙の一番上には、

優介の顔が鮮やかな色彩で描かれていた。






 だいすきなパパへ

ゆうかはパパがだいすきです

パパはいつもゆうかをだっこしてくれます

パパはゆうかにたくさんおはなししてくれます

いまはおみせがいそがしいからあそんでくれないけど

ずっとまえゆうかとママとパパでどうぶつえんにいきました

ママのおべんとうがおいしかたです

パパとママとまたどうぶつえんにいけるかな

ゆうかはまたいきたいです

おみせがなくなったらパパつかれないかな

またゆうかとたくさんあそんでくれるかな

パパいつもありがとう

ゆうかはパパがだいすきです


 せのおゆうか
  






ぽとりと落ちた雫で文字が滲む。

優介は画用紙の上に顔を埋め、がくりとその場に崩れ落ちた。





   了






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この記事へのコメント
あらっ!そんな!
もういっぺん「夕焼け」1に
行ってきました。あらら、
「優花ちゃんの幼稚園の」
とはありますが
「優花ちゃん」
とは書いてない・・・
最後の作文が悲しい。
ちょうど昨夜「アバウトシュミット」
を観たところです。
こんな終わり方でした。
これは受け手に痛いです。

連載もの楽しめました。
Posted by つる at 2008年01月08日 00:39
つるさん>
最後まで読んでくれてありがとう☆
やっぱこの長さになると、
ほころびが出まくりですわぁ(´Д`)
下手すぎる自分にガックリ(笑)
アバウトシュミットは予告編で観て、
良さそう!って思いました。
ジャックニコルソンですよね。
DVDで観てみよっかな。
でもその前にlostが・・・・・・
Posted by レイバック at 2008年01月08日 00:50
ううう……。
がくり。

「面白かった?」って訊かれたら、「うん」。
でも、初めての連載で、6回目にしてこの結末は悲しいですよ。

私は、H・C・ベイリーの短篇『黄色いなめくじ』をちょっと連想しました。

それはともかく、連載ものもイケますね、レイバックさん。
Posted by のちんかん at 2008年01月08日 00:58
三、四日ネットに、ほとんど触れられませんで、ひさしぶりーに来たら連載してる〜!
年始から激重だったけど、おもしろかったーです。
サイコホラーかなーとか思いながら読んでたら味のある話で、奥深いなぁと思い知らされました。
Posted by 火群 at 2008年01月08日 01:12
レイバックさん、こんばんみ☆
わ〜なんと・・・>_<
わたしも、1話に戻って読み返してみました。
始めに読んだストーリーがまったく違ったものに感じられて、びっくり。
そうだったのか・・・・。
2話あたりから、回想していることをすっかり忘れて読み入っていたことに気づきました。
悲しすぎる結末だったけど
とってもよかったです!
また短編が読みたいです♪
う〜かなしい・・・T。T
Posted by らに〜た at 2008年01月08日 02:22
うーん、かなしいお話でした。
やっぱり放火だったんじゃないかな?と思います。

この前も書いたけど、うちはラーメン屋でした。
両親が忙しい(特に母親がつかれている)とか、一緒に遊んでくれないとかいうのは当たり前のことで、特に疑問にも思わなかったな。親と遊ぶという発想はなかったかも。
商店街の子供たちは裏通りで集まって遊んでました。


すみません。
なんか当時のことをいろいろ思い出しちゃいました〜。
Posted by 七花 at 2008年01月08日 06:40
力が、抜けました。。。
悲しいです。
長編のお話は続きが楽しみで、待ってる間ワクワクしてました。
だけど、あぁ〜優花ちゃ〜ん(T_T)
Posted by naena at 2008年01月08日 12:43
わ〜、そう来ましたか!
この切ない子ども心……。
暗めの設定ですが、雰囲気が出ていてよいですね!
よいものをありがとうございました!
連載っていうのも、いいものですね〜。

ちなみに「夕焼け」というタイトルは
火事で家が「焼けた」というニュアンスも
込められているんでしょうか。
深読みしすぎですかね?
Posted by shitsuma at 2008年01月08日 17:34
全6話、ロジカルに構成されていて
読みやすかったです。
次は、「9ボール」のような作品の
連載を読んでみたいです^^
Posted by タケシ at 2008年01月08日 22:50
のちんかんさん>
こんばんは。読んで頂いてありがとうございます!
ちょっと唐突な終わり方だったかも知れないですね(笑)
>黄色いなめくじ。
ググってみましたが気になりますねぇ。
先日紹介されてた短編集なのかな。
また気が向いたら連載してみます^^
Posted by レイバック at 2008年01月09日 00:05
火群さん>
こんばんは。珍しいでしょ連載(笑)
激重な話でほんと申し訳ないです^^;
サイコホラーも取り組んでみたいですねぇ。
でも人がいいから書けないかもww
Posted by レイバック at 2008年01月09日 00:08
らに〜たさん>
こんばんみ♪ありがとうございます☆
これは一応全体の設計図を描いたので、
形にはなっていると思います。
ところどころグダグダなんですけどね(笑)
またたまには書いてみますね〜^^
Posted by レイバック at 2008年01月09日 00:11
七花さん>
こんばんは。最後まで読んでくれておおきにです!
真相は分からないですねぇ。消防の結果待ち(笑)
いえいえ、七花さんのお陰で想像が膨らんで、
書き直せた部分も多かったです。
そういえば子供の頃の友達でも、家がお店の子は、
放置プレイでしたね^^;今更思い出しましたw
Posted by レイバック at 2008年01月09日 00:15
naenaさん>
こんばんは。読んで頂いてありがとうございました☆
正月早々救いのない話でスミマセン・・・^^;
実は自分でも心苦しかったです(笑)
Posted by レイバック at 2008年01月09日 00:17
shitsumaさん>
こんばんは。
長いのに読んでくださってありがとうございます^^
これはオチからプロットを立てて、書いてみました。
この長さでもかなりしんどかったので、
ますます長編を書ける気がしません・・・
どうすれば良いですか?(笑)

タイトルはご指摘通り狙ってました( ´艸`)
Posted by レイバック at 2008年01月09日 00:20
タケシさん>
こんばんは。読んで頂いてありがとうございます^^

>ロジカルに構成されていて
読みやすかったです。

めっちゃ嬉しいですわー!
トライしてみてよかったです☆

9ボール。。バイカーの話でしたよね。
うーむ検討してみます^^;
Posted by レイバック at 2008年01月09日 00:23
そうですか〜そういう結末だったんですね。
子供ながらに考えたんでしょうね。
先が読めない作品でした。

レイバックさん、なかなかやりますなぁ〜
連載もこれから期待しています。
Posted by 舞 at 2008年01月09日 09:01
舞さん>
こんばんは^^
長いの読んで頂いておおきに!
子供の話は書いてても切ないっすね(泣)
連載はまた気が向いたらやってみますね☆
Posted by レイバック at 2008年01月09日 23:43
一気読みしました。
悲しいけれど面白かったですよ。
だけどレイバックさん程の腕なら
「ちょっと長めのショートショート」として
この展開を完結させられたんじゃないでしょうかね。
連載ならではの仕掛けを期待しちゃいました。
Posted by タンスにゴンザレス at 2008年01月21日 15:27
ゴンザレスさん>
こんばんは。
長かったのに、ありがとうございます♪
あー確かに仕掛けを期待されちゃうと、
肩透かしになりますよね、スミマセン^^;
また長めのショートショートもトライしてみますね!
Posted by レイバック at 2008年01月22日 22:13
レイバックさん、初めまして。
名前やコメントは何度も拝見してるのに、
初めましてというのも不思議ですが。

予想したように文章巧みで、引きずり込まれました。
いいタッチで最後まで描かれていて、さすがです。
これだけの出来栄えで、あえて注文つけるのもやぼですが、心配症な読者としては母親の描写が欲しかったです。

「空飛ぶ馬」は読んだ時に作者女性だと錯覚しましたw
Posted by 銀河系一朗 at 2008年01月23日 18:50
銀河系一朗さん>
こんばんは。はじめまして。
そしていらっしゃいませ^^
いつも行く先々でお名前は拝見しておりました。

長めのモノまで読んでいただけて嬉しいです。
が。あまりに稚拙なんでお恥ずかしい〜(汗)

最初は母親の描写も書いていたんですが、
どうにも上手く書けなくてバッサリとカットしたんですよねぇ。
そのせいで伏線としては・・・でしたね(笑)

北村薫氏が覆面を脱いだ時は、僕も驚かされました。
まさか男でしかも教師だったなんて^^;

またそちらにも伺いますね。
どうぞよろしくお願いします。
Posted by レイバック at 2008年01月24日 00:31
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