「本気で狙いに行くぞ。猪木賞」
次回作についての打ち合わせの最中、
私の口からこぼれた言葉に、西村の動きが止まった。
「このまま自分のスタイルで書き続けても、
まったく獲れそうな気がしないんだよ。
もう三回も落選してるからなぁ」
「獲れたじゃないですか、ベストジーニスト賞。
今年はベストファーザー賞も――」
「バカ野郎!」
私の投げつけた新聞を西村がヘッドスリップで避けた。
くそ。ボクサー崩れめ。
「でもセンセイ、狙って獲れるもんじゃないでしょう。
とにかくいい作品を書くしかないんじゃないですか?」
西村はフローリングの床に落ちた新聞を拾いながら正論を言う。
「そこでいい考えがあるんだ」
「いい考え?」
西村は私につやつやとしたミカンを一つ手渡しながら訊き返した。
「いいか西村。テレビに出てる占い師のババアや、
スピリッチュアルカウンセラーのブタがいるだろう?
あいつらは番組の中で芸能人や一般出演者の過去や悩みを
ズバリ言い当てて自らの能力をアピールしているが、
あんなものは全部まやかしでな。
実際には予め、出演者の周辺に調査員を送り込んで、
家族構成から普段の生活まで調べ上げているんだよ」
「ああ、最近週刊誌なんかで書かれてますよね」
「いわゆる『ホットリーディング』ってヤツだな。
昔よく出てた霊能者なんかもこの手口を使っていたらしい。
まぁとにかくだ。私もこの手を使ってみようと思うんだ。
つまり猪木賞の選考委員の好みやツボを徹底的に調べつくして、
そこをピンポイントに攻めるような作品を書くのさ。どうだ?」
「うーん……、いいと思いますけど、
その調査は誰がやるんです?」
「お前だよ」
「ええ!?ムリですよぉ。編集者は探偵じゃないんですから」
「そこをなんとかせい!」
私が投げつけたミカンの皮を西村はダッキングで避けた。
くそ。こいつディフェンスだけは一流だな。
「わ、分かりましたよ。でも具体的にどうするかが問題ですよね」
「まずナベジュン先生には若いオンナを一人送りこんで、
枕元で私の作品をさりげなくアピールさせるだろ――」
「それってホットリーディングじゃなくてハニートラップじゃないですか」
「いいんだよ。そこは別腹だ」
作家でも無いくせに言葉にうるさいヤツだ。
「まぁ全員で選考委員は9人だからな。
お前一人では大変だろうし、知り合いの探偵事務所を紹介するから、
そこの連中と協力してやってくれ、任せたぞ」
「はぁ。なんとかやってみます」
渋い顔をしながら西村は頷いた。
「ところでセンセイ、来月発表する新人賞の選考の件ですが、
候補作は読んでくださいましたか?」
「ああ。一通り読んだよ」
「気になる作品はありました?」
「●●はまぁまぁだったね」
「そうですか……、ちなみに今若い世代では、
○○さんの評価が高いんですよねぇ」
「へぇ。でも○○は文章が無茶苦茶じゃないか。あれはダメだろう」
「いえいえ、あの計算ずくの歪んだ文体が今、若者の心を叩いているんですよ。
オヤジ世代には分からない文学だ!ってネット上ではかなり話題になっています」
「そうなのか?」
「もし選考会でセンセイが○○さんの作品を高く評価したら……。
きっと若者の間でセンセイは絶賛されるでしょうね」
「なるほどな。まぁ私は若者文化に流される人間ではないが、
もう一度彼の作品には目を通しておくよ」
危ない危ない。○○と言えば、
選考会でこき下ろすつもりだったヤツじゃないか。
「ではセンセイ、今日は僕、そろそろ失礼しますね。
ホットリーディング作戦の件はまた連絡いたしますので」
「ああ。分かった。私も探偵事務所に連絡しておくよ」
☆ ☆ ☆
西村は後ろ手にドアを閉め、
懐から携帯電話を取り出した。
「もしもし?あ、○○さん?
ええ、なんとか上手く行きそうですよ。
次は△△センセイのところへ行きますので。はい――」
ショートショート目次へ
させていただく時はおむすびって書きます。
○○に自然と山田悠○の名前が
入ってしまった僕ですが決して
マイノリティじゃないと思います。
家庭教師していた時に生徒が勧めた作品を
読んだだけですが酷かった……。
あれが中学生の間で流行ってるらしいので
ショックが二倍三倍と。
まあ人のことは言えないんですけどね。
誰か僕のをビッグネーム作家に推薦して
くれないかなあ、なんて(笑)
先生が依頼する探偵は、やっぱりレイバック探偵?
ところで、I先生は1960年生まれらしいですよ。
ズラかなぁ?ミョーにフサフサですよね。
気になる・・・。
オチまでいかなくても「猪木賞」とか「ベストジーニスト賞」ってところで笑えました。
ところでブログペット始めたんですね。
時々殴って……いや、なでておきますね☆
ジャンルは違いますが、
現役野球選手時代に同賞を獲った
新庄を思い出しました。
オチも面白かったです!
ブログペットに話しかけたら
「猪木?」と訊かれました(笑)
わ〜おもしろかった〜≧▽≦
「タレント作家」もすっごく笑ったけど・・
こっちもオチがすばらしい〜☆
今日のショートショートはアイディア満載で、
読んでて楽しかったあ。
編集者がボクサー崩れ――ここ妙に引っかかって、
構えていたら……見事にずっこけましたあ。
こんばんは。たしかに(笑)
まぁそこをキッカケに他の本を読むようになればいいんですけどね。
携帯小説なんかも読書習慣の入口になるのなら価値はあるでしょうし。
あー僕も長編書かなきゃ!
こんばんは。うひひ。
探偵話に繋げたいけどムズイなぁ。
へーそうなんだ?
I先生若く見えますよね。
でもあれは地毛でしょー(笑)
一応今度テレビで見たときチェックしてみます^^
こんばんは。おおきにです^^
キラーワードが散らばってるでしょ?w
ブログペット可愛がってやってくださいね♪
こんばんは。
あーそういえば新庄貰ってましたね(笑)
でも野球では無冠ではなかろうか^^;
ブログペットとぼけててかわいいですよね〜☆
こんばんは^^ありがとうございます。
これはオチ無しで書き出したのですが、
なんとか着地できました〜〜(笑)
やっぱキャラがあると楽ですね♪
こんばんは。おおきにです☆
会話文中心だけど小ネタが効いてたかな?
あらら。そんなくすぐりに引っかかったのねー(笑)
僕自身オチは考えてなかったんですけどね^^;