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「失われた水を求めて」


西暦2110年。地球上では水が絶対的に不足していた。
世界中の至るところで砂漠化が進み。降雨量は激減。
つまり地域によっては全く真水が手に入らない状態だった。

アメリカでは海水を濾過蒸留して飲料水を生産していたのだが、
ここ数年、その価格の高騰が庶民の生活を圧迫し続けていた。

マサチューセッツ州ボストン。
ここに住むある青年の家でも、深刻な飲料水不足に悩まされている。
父親を亡くしてからというもの家計が苦しく、
地下に設置された貯水タンクの水は底をつきかけていた。

今月中になんとかしなければ……
青年は決意した。
水が無いのなら、水のある時代に行けばいいじゃないか。
彼は仕事の合間を縫って、タイムマシンを作りはじめたのである。

学費が支払えず中退こそしたものの、彼は元MITの学生だった。
女の子やドラッグなどにわき目もふらず勉強していたのだから、
その気になれば、なんとかなるだろう。その程度の自信はあった。

ベースにしたのは祖父の形見のデロリアン。
彼の祖父自身がレストアして蘇らせた車で、
それを受け継いだ青年は、今も大切に乗り続けていた。
クラシック映画でもタイムマシンとして使用されていた車だ。
素材としては充分過ぎるだろう。
近所の工場裏に捨てられているパーツや、
大学の研究室に忍び込んで盗んだパーツを利用し、
彼はついに目的の物を作り上げた。


  ☆   ☆   ☆


「ママ、ジェシカ、行ってくるよ」

青年は見送りに来た母親と妹にキスをし、束の間の別れを告げた。
街外れの直線道路で、彼を乗せたデロリアンは二度三度と獰猛な雄叫びを上げる。
青年が静かにクラッチを繋いだ。タイヤが鳴き、マシンは白煙に包まれる。
心配そうに見つめる二人の目の前で、
デロリアンはリアを振りながら、狂ったように飛び出していった。

タコメーターの針がレッドゾーンに届く寸前。
彼と相棒は時空の壁を突破した。

オーロラに虹が巻き付いて砕け散ったのかと思うほど、
様々な色の光が瞬きながら窓の外を飛び去ってゆく。

摩擦のせいか車内の温度がぐんぐんと上昇する。
未舗装の道を全力で疾走するように車体は激しく揺さぶられる。
青年は必死にハンドルにしがみついていた。
ピシッという音が響き、フロントガラスに網の目状のひびが入る。

屋根は今にも剥がれんばかりにバタつき、助手席側のドアは吹き飛んでいった。
フロントガラスがついに割れ、粉々に砕けたガラスのシャワーが青年を襲う。
凄まじい風圧。耳をつんざく轟音。声にならない自らの悲鳴。

まだ死ぬわけにはいかない。家族が待っているのに。
それに、女を知らないまま死ぬなんて――
彼が気を失うと同時に、デロリアンのボディはバラバラに分解した。
シートベルトが断ち切れ、
青年の身体はくしゃくしゃに丸められた紙屑のように投げ出された。


  ☆   ☆   ☆


どこだ?ここは。
アスファルトの凸凹が青年の頬にめりこんでいた。顔を持ち上げる。
目の前には彼の住むアメリカの建築様式とは明らかに違う建物が並んでいる。

ここは中国……、いや日本か?
身体はなんとか動く、青年は寝転んだまま手足を動かしてみた。
骨も折れてはいないようだ。打ち身と擦り傷程度だろうか。

「エホッ、ゲホッ」

喉が焼けたようにひりひりとする。
身体中の水分が奪われて脱水症状を起こしているようだ。

とにかく水だ。水が飲みたい。
青年は助手席に置いていたナップザックを探した。あの中には水筒が入っている
だが見当たらない。もちろんデロリアンの姿は微塵も残ってはいなかった。

いや、唯一、ハンドルが転がっていた。
コンクリート製の柱の下に。

青年は意味も無くハンドルの方に這っていき、手を伸ばした。
自分がいた世界との繋がりを求めていたのかもしれない。

その時、視界の端に何かが見えた。

水?

水だ!

道路と建物の間に、水の入った透明のボトルが数本転がっていた。

青年はアスファルトを爪で引っ掻くようにして前に進み、ボトルを手に掴んだ。
我を失いそうになりながら、キャップを外し、喉に流しこむ。
生ぬるかった。それに、なにやら妙な匂いがしたが、今の彼には全く気にならなかった。

ごくりごくりと、辺りに響き渡るほど喉を鳴らし、彼は飲み続けた。
砂漠に降る雨のように水が身体に浸透してゆく。
凹んだプラスチックが、音を立てて元の形に戻った。

『コラッ!』

突然、声が響いた。
青年が振り向くと、年配の女性が建物のドアの前に立っていた。
腰に両手を当てて、まるで悪魔のような形相である。

『何してんの!あんた誰!?』

アメリカ人の青年には、彼女の言葉の意味が分からない。
だが、彼女の声の調子とその表情からすると、怒っているように思えた。

「Sorry、ahh……」

怪しまれている。とりあえず自己紹介をしなければ。

「Peter、My name is Peter――」

『それは猫を追い払う為の水なのよ!』

女性はヒステリックなもの言いでピーターの言葉を遮った。
彼女は何と言っているのだろう?
困った。まったく理解できなかった。

「W、What?」

『キャット!ウォーター!』

猫の水!?

日本の猫はこんなにキレイな水を飲んでいるのか!









 
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この記事へのコメント
>それに、女を知らないまま死ぬなんて―

ピーターちゃうやん!


☆☆☆星2つ目のくくりまで、何が起きるか、ワクワクしちゃいました。
近未来の話はいいな。好きだな。
Posted by つる at 2008年03月22日 02:20
読んでる間ずっとUSJのサウンドが。
すっごく好きな映画です。
ピーターと言えば、こないだの!
・・・あれ?まだ、でしたか?
Posted by naena at 2008年03月22日 12:45
タイムマシーンといえば机の引き出しかデロリアンですよね(*´∇`*)

>キャットウォーター
ピーター腹壊すなよ〜
Posted by at 2008年03月22日 16:47
つるさん>
こんばんは。
ちゃうねんちゃうねん。
これは過去の話やねん^^;
女を知らなかったが故に……
……強引でゴメン(笑)
SF入ったお話って書いてる方も楽しいね。

naenaさん>
こんばんは。
そうだUSJにデロリアンの本物が、
置いてましたよね^^
今でもあるんかなぁ。
この頃の彼は、まだアレだったんですよー(汗)

鯨さん>
こんばんは。
あ。そうだ、そっちのマシンもあったか!
完全に忘れてましたわ^^;
でも机タイプはカッコつかんなぁ(笑)
Posted by レイバック at 2008年03月22日 23:34
バッ●・トゥ・ザ・フュー●ャーばりのSF?
あるいは水不足問題を取り上げた社会派?
……と思ったら、まさかピーターの話だったとは^^;
なんと、彼、未来人だったんですね。
どんな経緯があって今に至るんだろう。
気になりますね〜(笑)
Posted by shitsuma at 2008年03月26日 00:51
shitsumaさん>
ども!あの映画大好きなんですよー^^
なんだかこのお話は大風呂敷を広げすぎて、
回収に失敗した模様です(笑)
まぁそういう事もありますね!ハハハハハヾ(´▽`;)

ピーターネタが書きにくくなっちゃったw
Posted by レイバック at 2008年03月26日 01:22
レイバックさん、
こんばんは♪
「オーロラに虹が巻き付いて砕け散ったのかと思うほど、
様々な色の光が瞬きながら窓の外を飛び去ってゆく。」
のところがとっても好きです。
ピーターが、タイムマシンに乗って時空を超えたときの様々な描写が
映画のワンシーンのように目にその光景が浮かんで、すばらしいと思いました♪
妹さんの名前がジェシカっていうのも、リアル〜☆
せっかく水にありつけたのに。。。おなか大丈夫かな。。。
とってもおもしろかったです。

Posted by らに〜た at 2008年04月05日 20:25
らに〜たさん>
こんばんは♪ありがとうございます^^
ちょっと短い中で詰め込み過ぎたかもしれないですね。
でもバックトゥザフューチャーを思い出しながら書けて、
楽しかったですわー☆
Posted by レイバック at 2008年04月06日 00:10
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