なぁ。どう思う?このニュース。
まぁ。どっちもどっちだろ。
内政が安定しない分、反日感情を煽って、
国民の目を外に向けようとしてるだけだ。
その場しのぎの愚かな扇動。
東アジアの国ではよく使われる手だよ。
それに青筋を立てているこの国の若者も考えものだがな。
なるほどなぁ。
お前。それよりたまには外に――
「マサオちゃん、朝ごはんよ。ねぇ開けてもいい?」
ノックと母親の猫撫で声が僕とヒロユキの会話を寸断するように割って入った。
「入ってくるな、そこに置いといてよ」
「・・・・・・、じゃあ、お母さんもう仕事に行くから」
毎日繰り返されるやりとり。
九時起床。パソコン起動。電子メール確認。
インターネットニュースをチェック。
朝ゴハンを食べて、オンラインゲームスタート。
(現在二つのゲームを同時進行中)
ひたすら経験値とゴールドを稼ぐ。腹が減る。
キッチンに行って適当に昼ゴハンを食べる。
再び冒険の世界へ。
いつのまにか晩ゴハンの時間。
食後はヒロユキと下らない会話をしながら、
自ら運営するゲーム攻略サイトの更新。
コメントにレス。
その後、某巨大掲示板を冷やかしていると、
いつの間にか午前二時。眠たくなる。就寝。
いつもと変わらぬ一日を過ごすつもりだった。
僕が部屋の前に置かれたトレイを取るためにドアを開けると、
階下で玄関のチャイムが鳴った。
誰だよ。こんな朝から。
まぁ出るつもりないんだけど。
郵便か宅急便じゃないのか?
ヒロユキが語りかけてくる。
どうせ僕宛じゃないからいいよ。
放っときゃ「不在でした」の紙切れ放り込んで行くでしょ。
お前少し前にAMAZONで何か注文してただろうが。
あ。そういえば。リボルテックのフィギュア・・・・・・
あれが届いたのかな。
玄関のチャイムは一定の間隔で鳴らされ続けていた。
諦めの悪い配達人だなぁ。
僕はダボダボになったトレーナーの袖を振り、
すとすとすとと軽薄な音を立てながら階段を降りた。
どちら様ですかー?
・・・・・・
返事が無い。ドアの真中にある覗き穴から外を覗いてみる。
ひやりとした木の感触が頬に伝わった。
うーん。近すぎて見えない。
でも誰かが何かの荷物を持ってそこに立っているのは確かだった。
僕は覗き穴から目を離し、ドアを開けた。
「どうもー宅急便でーす。こちらにハンコかサインお願いしまーす」
帽子を目深に被った若い配達員。
「はい。どうもでした」
荷物を受け取ってドアを閉めた。
靴箱の半分ぐらいのサイズで無地のダンボール。
見慣れたAMAZONの箱では無かった。
送り状の差出人の部分は聞き覚えの無い会社名になっている。
一体中身はなんなのだろう。
ダイニングテーブルの上で箱を開けてみると、
中から梱包材に包まれたガラス瓶が出てきた。
瓶の中には細かな白い粒がびっしりと詰まっている。
どうやらオレ宛の荷物だな。
ヒロユキの声が頭の中に響いた。
え?そうなんだ。
何なのこの中身?
言わばオレ達の分身だ。
分身?
ああ。これが人間達の口に入るよう、
至るところにばら撒いて欲しいんだ。
これからは人間と俺たちが共存共栄し、
新たな世界を作り上げてゆく必要がある。
お前にも分かるだろう?
オレと一緒に暮らすようになってから、
ダイエットにも成功したし、アトピーだって完治したじゃないか。
そもそもオレ達と動物は一緒に居るのが一番自然なんだよ。
人間は自分達を特別な存在だと思い込み、
菌や寄生虫を忌み嫌うように暮らしてきた。
清潔や衛生などと言う無意味な単語を並べてな。
現在人類が抱える健康問題を見れば、
それが間違いだった事が分かるだろう。
肥満、メタボリック症候群、高脂血症、様々なアレルギー。
だが、オレ達と共に暮らすことで、それらの問題は全て解決する。
それを世界中の人々に知らしめてやろうじゃないか。
さぁ。早速、今晩にでも浄水場に忍び込むか。
僕は腹の底から響くようなヒロユキの演説を頷きながら聞いていた。
確かにヒロユキと共に暮らすようになってから、僕の体重は激減した。
90kg→50kg。
そりゃあ摂取する栄養分を分かち合っているのだから当然だろう。
そして不思議な事にアトピーや花粉症の症状も消えた。
ヒロユキから聞いた説明は難しくて理解できなかったが、
寄生虫の存在によって身体の中の免疫機能の働きが変わり、
アレルギー症状が改善されるらしい。
なんにしても、いい事ずくめなのは間違いない。
ヒロユキ。僕、本当に感謝してるよ。
人類と寄生虫は共存共栄だね。
その通りだマサオ。
これからは俺たちが協力して、俺たちの手で、
このどうしようもない世界を変えてやろうじゃないか。
不思議な熱を帯びたヒロユキの言葉に胸がどきどきする。
僕たちが世界を変える。
そして山崎マサオとサナダヒロユキの名を歴史に刻む。
そう考えると、身体中に力がみなぎるような気がした。
僕はガラス瓶を両手で胸に抱き、階段を駆け上がった。
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