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「タモリウォッチング」



「タモリさんて鍋奉行なんですよね」

「オレはねぇ。どちらかっつうと鍋将軍だね」

「あはは。将軍ですか」

「鍋ってのはねぇ。作り方によって味が変わるんだよ」

「ええー、そうなんですか?」

「これがそうなんだよ。宴会でもオレが作る鍋だけは味が違うからね」

「でも、お鍋なんて誰が作っても――」

「違うんだよ。あれはねぇ味の出るものから順番に入れるんだよ。

そのまま蓋をして、ダシが出るまで待たなきゃダメなの。我慢が肝心なんだよね」

タモリ。いつもはだらだらのくせに。

食の話になるとサングラスの奥の目が輝きだすのは何故だ。

まして自分のやり方に反論でもされようものなら。

人格が変わったかのように力説を始める。

力の入ったタモリ。なんか嫌だ。

「じゃあ私は待ち娘でいいです」

「上手いねぇ」

「アク代官もやりますよ」

タモリ苦笑い。

そこで畳み掛けられてどうする。グラビアアイドルに。

「食を語りだしたタモリはペースを乱す」

誰か卒論のテーマにどうだ?










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posted by layback at 09:30
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「本のミステリー」



私は人間観察が好きだ。

だが、私の想像力が逞しすぎる為、

しばしばそれは人間観察を通り越して、

プロファイリングの域にまで達してしまう。

ある朝、電車に乗ると、目の前に一人の若い男が座っていた。

身体にフィットしたライトグレイのスーツに、

淡いピンク色のネクタイ。太くて黒いセルフレームの眼鏡。

身に着けた物だけを見ると、小綺麗で流行のスタイルだが、

その顔は何日も着たままのYシャツのようにやつれ果てていた。

目の下の隈が蓄積した疲れを物語っている。

毎日毎日残業続きでほとんど休みも取れない状態、

おそらくそんなところだろう。

男は本を読んでいた。

新書サイズでブックカバーは掛けられていない。

私はさりげなく身体の角度を変え、

その本のタイトルを覗き見ようとした。

何? 行儀が悪い?

そんな事はない。

人が読んでいる本が気になるのは、

古今東西万国共通、至って自然な人間心理なのだ。


○&%$#

読めない・・・・・・。


あろうことか男は上下逆さまに本を読んでいた。

私の視線に気付いたのか、男がふっと顔を上げた。

私は咄嗟に目を逸らした。

男は再び本に目を落とし、頁を捲っている。

逆さまだというのに!

しかも今度は、これみよがしに背表紙を見せながら。

 ク
 カ
 ン
 ヒ
 の
 ヒ
 ル
 ハ
 ヤ
 ミ
 ズ
 ス

なるほど下から逆に読んでみると、

どこかで聞いたようなタイトルだ。

降りる駅が近付いてきた。

電車の到着を告げるアナウンスが鳴る。

男は本を閉じ、席を立った。

なんだ私と同じ駅だったのか。

男は電車を降りると、そのまま階段に向かう人込みに紛れて姿を消した。



明くる日。

珍しく寝坊した私は、ギリギリのタイミングで電車に駆け込んだ。

すると斜め前に座っている男と目が合った。

昨日の男だ。

今日は昨日と乗り込んだ車両が違うのに何故だろう。

電車通勤するサラリーマンは毎日同じ車両に乗るものだが・・・・・・。

扉が閉まり電車が走り出した。

私は目の前の吊革を掴み、観察を始めた。

男のスーツは濃紺に、ネクタイは水色に変わっている。

しかし目の下の隈はそのままだった。

そして――

上下逆さまの本も。

「スズミヤハルヒのヒンカク」

ついタイトルを覚えてしまった。

男は耳にインナーイヤータイプの白いヘッドフォンをはめ、

軽くノリノリな様子で頁を捲っている。

しつこいがもう一度言っておこう。

逆さまだというのに!

私は横目でチラチラと男を観察し続けた。

既婚だな。(薬指の指輪)

キレイ好き。(手入れされた爪)

モノにはこだわるタイプ。(ヘッドフォンがJBL製)

恐らくクルマは外車を選びそうだ。

メルセデス、BMWなどベタなところは敢えて避け、

シトロエン、もしくはアルファロメオあたりがお好みか。

いやスーツや髪型の固さを見るとイタリア車はないな。

ズバリ。遊び心とエスプリの効いたシトロエンが本命だ。

男の観察と分析に没頭しているといつの間にか駅に着いてしまった。

“逆さま本”の謎がまだ解けていないというのに、

余計なプロファイリングに時間を使ってしまうとは。

こんな事ではFBI捜査官にはなれない。

人波に揉まれながら私と男は、ほぼ同じタイミングで電車を降りた。

私は意を決して、男の肩を叩いた。

「あのー、突然すみません」

「なんでしょう?」

男は私から声を掛けられる事を予想していたかのように悠然と振り返った。

「つかぬ事を伺いますが――

何故、本を逆さまに読まれているのですか?」

「ああ。これはね、実は私、





















書籍の編集者なのですよ。この本は私が手がけた本でしてね。

こうやって毎日電車の中で読んで、書名をアピールしている訳です」

「しかし、本は逆さまでしたよ?昨日も今日も」

私は肝心なところを訊いてみた。

「だって本が逆さまだと、余計に気になるでしょ?

あいつは何を読んでいるんだ?ってね。

それで書名を覚えてもらうと言うわけです。

ちなみにカバーだけが逆さまで中身はそのままなんですよ」

男はにこやかに本を差し出した。

「参りました」

やはり、私はFBI捜査官にはなれそうにない。











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