夢が叶う。
今夜。
これで母ちゃんに親孝行が出来る。
そう考えると・・・・・・
バカ野郎。泣くな。
これから本番だろうが。
さぁ前ぇ向け。
行くぞ。
白組は、中村ユウゴォッ!!
俺は両手を高々と挙げ、舞台の袖から飛び出した。
あとの記憶は真っ白だった。
ただがむしゃらにギターを掻き鳴らし、歌った。
のだと思う。
覚えてないのだからしょうがない。
母ちゃんが毎年楽しみにしてた紅白に出れる日が来るなんて。
実際には、
俺が街中でそれほど認知されてないってことも。
大御所の演歌歌手からはADだって思われてたことも。
何より話題づくりの為に呼ばれたってことも。
全部分かってる。
でも紅白に出たって事実は変わらない。
エンディングを迎えた舞台では何十人もの出演者達が、
希望に満ちた表情で司会者の言葉に耳を傾けていた。
俺は後ろの方の列に紛れながら天を見上げた。
母ちゃん見ててくれたかな。
白組の勝利です!
白組だろうが赤組だろうがどうでも良かった。
テレビの前で観てる人は勝ち負けなんて気にしてない。
だが俺が白組に迎えられた事で、
勇気付けられたヤツはいるかもしれない。
割れんばかりの歓声の中から、
母ちゃんの声が聞こえたような気がした。
優子ー、お蕎麦出来たよー。
ああ蕎麦食いたい。
年越し蕎麦。
母ちゃんの側で。
来年はきっといい年になる。
盛大な拍手と紙吹雪を浴びながら、
俺は無責任にそう思う。
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