おすすめ作品

  「JP」 「糸電話」 「逆向き」 「締め切り」

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「苦しまぎれ」



「あのビョークの映画のタイトルってなんだっけ?」

「あーあれね。あれは確か――

『古城を改装したホテルの一室で、

男はショットグラスを片手に安楽椅子に座っていた。

格子窓から見える階下のテラスでは、

女が何かに取り憑かれたかのように踊っている。

月に雲のカーテンがかかる中、

長い手足をしなやかに使うその姿は、

いささかも病苦を感じさせなかった。

男はグラスの中の琥珀の液体を飲むことも忘れ、

しばしその姿に見とれていた。

と、突然、女の身体がぐらつき、

前のめりに崩れ落ちた。

「あっ!」

男は握っていたグラスを落とし、慌てて部屋を飛び出した。

階段を転げ落ちそうになりながら駆け降り、

女がうずくまるテラスへ走った。

「やっちゃったみたい」

足首を押さえ、痛みに顔を歪めながらも、

女の目は父親に怒られている時の少女の様に、

男の顔色を伺っていた。

「夜踊る時は気を付けなさいと言っただろう。

古い城なんだから、あちらこちらに段差があるんだよ」

二人の顔は近付き――』」

「あーもう分かった。

『段差ーインザダーク』って言いたかったんでしょ?」

「いや、しかも――」

「病苦が伏線だ。って?」

「・・・・・・」

「説明が長い!それに、そんな映画ではありません」

「ハイ」

「ネタが切れたからって駄洒落に逃げるな」

「スミマセン・・・・・・」








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「スターダスト」



きりりと冷えた夜空に手を伸ばし、

瞬く星を捕まえる。

逃がすまいとぎゅっと握り締めた拳の隙間から、砕けた星屑が飛び出した。

無数の小さな煌めきは一旦ふわりと空中を浮遊した後、

暗闇に柳の枝の様な軌道を描きながらスロウに落ちてゆく。

オスカーピーターソンのピアノを聴きながら夜空を見上げていると、

本当に星に手が届きそうな気分になるから不思議なものだ。

ipodをポケットに忍ばせ夜の街を闊歩する。

行く先は何処でも良かった。

コンビニでもレンタルショップでも。

一日が終わる前に外の空気を吸いに出る。

夏の夜のぼんやりとした空気も捨てがたいが、

冬の夜の引き締まった空気も悪くない。

胸いっぱいに吸い込むと脳と内臓を刺激してくれる。

それに何より星との距離が近いのがいい。

オスカーの左手のリズムに合わせて歩幅を調節する。

吐く息は白く、漫画の吹き出しのように、浮かんでは消えていった。

ウォーキングに精を出す女性達。

原付に跨り爆音で走り去る少年。

不穏なようで平和なような。

いつもの人々いつもの光景。

変わり映えのない日常から汲み取ったエッセンスを

言葉に変換することは簡単なようで難しい。

いつの日かこの手は星空に届くだろうか。

オスカーがスタンダードを弾き終える。

僕は立ち止まり、きりりと冷えた夜空に両手をのばした。











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