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  「JP」 「糸電話」 「逆向き」 「締め切り」

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「得物」



クロージャアイーズ♪

アンダイキシュー

トゥモロウアイミシュー

リメンバーアイオーウェイズビートゥー♪

ipodを聴きながら軽快にチャリを飛ばす。

ついつい口ずさんでしまうのは癖だからしょうがない。

朝はホントに歌ってて気持ちがいいんだ。

夕方に歌いながら走ってると、

口の中に虫が入ってきてエライ目に遭うんだけれど。

フライトジャケットの襟元から忍び込む空気がひやりと冷たい。

そろそろマフラー出さないとな。

駅前の駐輪場にチャリを停め、小走りに改札へ向かった。

ちょうど電車が着いたタイミングだったようで、

多くのサラリーマンやOL達が人波となり、

怒涛のように改札へ押し寄せてくる。

と、その中に発見。

いつものヤツだ。

毎朝このタイミングで鉢合わせるダークスーツの男。

通称ダークマン。

なんつってオレが勝手にそう呼んでるだけ。

近付いてきたダークマンが、

さりげない風を装って上着の内側に手をやった。

二人の視線が交錯し、緊張が走る。

周りの人間はオレとヤツの動きに全く気付いていない。

オレの方が一瞬先に抜いた。

鋭く足を踏み出す。

くっ!

×

マークが点灯。

オレの右手に握られた定期券はタッチの差で自動改札機に拒まれた。

ニヤリと口の端を上げたダークマンは機械にかざした定期入れを

ポケットに仕舞い、颯爽とオレの前を通り過ぎてゆく。

まったく嫌味なヤツだ。

オレは今日も敗北感に打ちひしがれながら、

となりの改札機を使う。

そして心の中で叫ぶのだ。

オレもSuicaにしてやるぅぅぅぅぅ!










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posted by layback at 01:40
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「Cheap Love」



病院の屋上に上がったオレは、フェンス際で一人たたずみ、

一日に一度、夕方にしか味わえない風の香りを楽しんでいた。

眼下に広がる風景にしばし時間を忘れる。

傾いた太陽は、そこに存在する全てのものに陰影を与え、

新興住宅地の画一的な街波をくっきりと浮かび上がらせていた。

もう入院生活も7ヶ月目か。

幼い頃両親を無くしたオレの身のまわりの世話は、

アヤナが見てくれている。

あいつ、キャバクラの仕事でフラフラのくせに、

今日も朝から洗濯物やらなんやら・・・・・・、

オレが自分で出切るって言ってるのに聞かないんだよな、

ホストだって洗濯ぐらい――

その時、背後から突然声を掛けられた、

「リョウくーん。調子どう?」

「なんなんだよ。ノックぐらいしろって言ってんだろ!

今、調子良かったのによぉ」

「なんだ勉強してたんじゃないの?

そんなにパソコンばかりやってたら目が疲れるし、

身体にも悪いわよ。ほら少し休憩しなさい、お夜食持ってきたから」

「うるせーよ。小説書いてんだから邪魔すんな!」

「あら。ひどい言い草。どれどれ?ママにも見せてよ。

何? 漢字間違ったりしてるんじゃないの?ママが――」

「見ーるーなー」

オレはディスプレイを両腕で囲い込むようにして、

書きかけの処女作品が盗み見されるのを防いだ。

「しっ!しっ!」

声だけで追い払うと、母親は不満げな表情で、

栗饅頭とお茶を載せた盆をパソコンデスクの端に置き、

部屋から出て行った。

あいつ。まったく何考えてんだ。

さぁ、続きをと――

ガチャ

「ママー? あれどこにしまったっけ?」

「なんなのよ?もう!ノックぐらいしてよ!」

「あ、ああ、スマン・・・・・・」

「だいたい、あれってなんなのよ。

あー、もういい。説明しなくていいから。

出てって、自分で探しなさいよ。

今、小説書いてて忙しいのよ。チッ」

舌打ちに怯えたのか、

バカ亭主は無言のままドアを閉め、退散した。

まったく。ノってきていいところだったのに。

ホストとキャバ嬢の恋を描く男子高校生が主人公。

これは我ながらナイスな設定だわ。

さ、集中するわよ――

コンコン

ガチャ

「パパー?新しい小説書けたー??」









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