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「ナースコール」



「ねぇ高塚さん、 307号室の笠井さん、明日退院でしたよね?」

「・・・・・・」

なによ、感じ悪い。

人が訊いてるのに、シカトする事ないじゃない。

この病院のナースはなんでこう陰湿な人が多いんだろう。

夜勤の時は二人一組でこのフロアを見る事になっていた。

明美は二年先輩の高塚と組んでいるのだが、

どうも意思の疎通が上手くいかない。

それどころか高塚は、明美の質問に返事すらしないのだ。

まったく何考えてるのかしら。

先輩風吹かせちゃって。

仕事のブランクはあったものの、

そつなく業務をこなしてる自信はあった。

患者さんへの対応だって――

ピー ピー ピー

あ、ナースコール、

「高塚さん!」

「・・・・・・」

何?

聞こえてないの??

高塚はナースコールにも明美の問いかけにも反応せず、

肘をデスクに突きながら

眠そうな目でファイルをめくっている。

何よ、ボンクラ!

やっぱり私がいないとダメじゃない。

明美は制御盤に走り寄り、病室を確認しようとした。

おかしい、ランプはどれも緑色のままだ。

呼び出しを表示する赤いランプは、どこにも点いていない。

どうして?

「高つ――」

ダメだ。

この緊急時に何を考えてるのか、

高塚はデスクに突っ伏してうたたねをしている。

まだナースコールは鳴り続けていた。

明美はインターフォンを、壁から引っ剥がすようにして取った。

だが耳に当ててもツーツーと空しい音がするだけで、

助けを呼ぶ声も、うめき声も聞こえてこない。

どこなの!?

とにかく行かなきゃ。

明美はインターフォンを投げつけるように壁のフックに戻し、

イスの背に太腿をぶつけながらドアに向かった。

転げそうな勢いでナースセンターを飛び出す。

くっ。

瞬間、眩しい光に照らされた。

目を開けられない。

何?

明美が手をかざしながら薄目を開けると、

足下にあるはずのリノリウムの床は立ち消え、

白い光に包まれた空間が辺りに広がっている。

正面には半透明の階段が空へと伸びていた。

やっと思い出した。

またここに来てたのね。

いつまでたっても自分が死んだことを理解できず、

明美は何度も職場に舞い戻っていたのだ。

その度につらく悲しい思いをするのに。

なんで?

なんでこんな場所に帰って来るのよ!

答えは分かっていた。

ここが彼女の居場所だったから、

ここには彼女を必要としてくれる人がいたから、

ここで働いてる時だけは生きてるって感じられたからだ。

ピー ピー ピー

単調な電子音が彼女を呼び続けている。

行かなきゃ ね

もうここに、私の居場所はないんだから。

明美は一歩足を踏み出した。

雲を突き抜け、天上へと伸びる階段に。

戻って来ちゃだめよ――

明美は患者さんに声をかける時のように、

やさしく自分に言い聞かせた。

どうせ忘れてしまうのだけれど・・・・・・




は。

いけない、寝ちゃってた? 私。

高塚は目を覚ました。

ほんの数分間、舟を漕いでいたようだ。

ぶるっ

寒い。

見るとドアが半開きになっている。

どうしたのかしら?

席を立ち、ドアを閉めた。

はぁ、夜勤はやだやだ。

振り返ると、

フックから外れたインタ−フォンが、

風にゆらゆらと揺れていた。




















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「s○x」



その最中。

京子の指が、僕の口の中に侵入してきた。

粘膜を触られると異常に感じる。

キスの時。舌で掻きまわされるのもそうだし。

ムリヤリ押し込まれる指の異物感もたまらない。

僕はそうされるのが好きだった。

いつものように京子の愛撫だと思って。

歯を立てないように彼女の指を受け入れた。

人差し指と中指。

目を瞑ってても分かる。

ガラスのマドラーのように。

冷たくて滑らかな指。

舌で応えようとすると。

なんらかの錠剤が口の中に放たれた。

「ん、あに?」

「いいから。優、気持ちよくなりたいでしょ?」

「ん、うん」

ごくりと飲み込む。

湿った唇で口を塞がれ、

一瞬呼吸が出来ない。

鼻から吸わなきゃ。

塀のスキマに潜り込む猫のように

彼女の舌が入ってきた。

ん。

口の中、一気に暴風域。

突起を責める京子の指の動きが速くなる。

粘膜の立てる音が恥ずかしい。

頭の後ろの方がじーんと痺れてくる。

下半身から駆け上がってくる。

脊髄を通って。

駆け上がってくる。

もうそこまで。

体が反り返る。

あ。

「ん・・・・・・京子?」

眩しい。

朝じゃん。

ベッドの隣は空だ。

頭が痛い。

シーツを被ろうとして気付いた。

股間に靴下がある。

逆立ちの状態で。

赤地に雪柄。

派手すぎる。

自分で履いてたヤツじゃない。

あ、今日クリスマスか。

まさか。

靴下を取ってみると、

僕の欲しかったモノが付いてる。

僕はずっと男の子になりたかった。

「優ー、起きたー?」

キッチンから声がする。

香ばしい匂いも。

「うん。僕もこいつも起きてる」

何が起きたのか分からないけど。

僕は男の子になれたみたい。

「ありがとう、京子」

「クリスマスだからね」

彼女が現れた。

食パンに目玉焼きとソーセージ。

大きな皿に二人分載せて。









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