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「エージェントL」


 俺はエージェントだ。
 この糞忙しい時にまた厄介な任務が降りかかってきた。
 任務の中身は、謎の言葉「薔薇の蕾」について探ってこいというものだった。

 とらえどころはないものの、シンプルと言えばシンプルな任務だ。
 だが今の俺に自らの足を使って調査している余裕はなかった。

 しょうがない。ネットを使うか。
 俺には仕事関係のWebページとはまた別に、まったくの趣味で運営している小説ブログがある。
 試しにそこで情報収集をしてみることにした。

 今回の短編小説競作企画のテーマは「薔薇の蕾」です!
 みなさん、どしどし参加してくださいねー。


 よし。これでいい。
 交流のあるブログ仲間達が情報を集めてきてくれるだろう。あとは座して待つばかりだ。

 書けましたよー! upしましたー! まだ書けてません!;;

 ブログのコメント欄が元気な報告で埋められてゆく。
 フフフ。これもアルファーブロガーアワード2001で本年度のアルファーブロガーベスト24にノミネートされたものの今ではとうに名前を忘れられかけているアルファーブロガー崩れの俺ならではの人脈があればこそ。

 アルファーブロガー崩れの俺のいかしたブログに、皆が書いてくれた小説のリンクをがしがし貼りつけてゆく。
 物書きブロガーという言葉の専門家が「薔薇の蕾」というキーワードを元にかき集めてくる値千金の情報群。
 そしてその情報を元に産み落とされる珠玉の物語達。そしてそしてそれを読んだ人々から寄せられる膨大な数のコメント。
 ものすごい反響だった。ブログにアクセスが殺到した。土曜の夜にはサーバーも落ちた。これにはブログサービスの中の人も泣いた。(だろう)
 ブログで情報収集作戦は大成功だった。

 一ヶ月後。こうして集めた一連の情報を精査し、まとめ上げた資料が遂に完成した。
 俺は達成感に打ち震えながら受話器を握り締める。

「いつもお世話になっております。御社の新製品のネーミング案『薔薇の蕾』についての市場調査の結果がまとまりましたので、ええ、これからうかがいます」

 ――だが俺とブロ友さん達の苦労は徒労に終わることとなる。

 結局、その新製品が発売されることはなかったのだ。




















※これはヴァッキーノさんのブログで行われている競作企画向けに書いたお話です。

秘密諜報【競作】指令:「薔薇の蕾」の謎を追え!


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posted by layback at 19:25
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「Lovers」


 家に帰ると猫のミーコが相方にじゃれついている。
 君たち相変わらず仲いいね。さぁごはんだよ。
 そう言うと、ミーコは自分専用の皿の元に、てくてくと歩いてくる。
 ミーコから解放されたルンバはやれやれといった様子で自分のホームに戻ってゆく。
 ミーコに餌が必要なように、彼にも充電が必要なのだ。

 猫のミーコと自動掃除機のルンバは大の仲良しである。
 熱心に職務をこなしているルンバをミーコはいつも追いかけ回す。
 ある日ルンバの調子が悪くなったのでメーカー修理に出したところ、なんと新品交換となって返ってきた。
 ルンバが綺麗になってよかったね。わたしは言う。
 ところがミーコは不思議と見向きもしなかった。

 新ルンバは微かな作動音を発しながら部屋を掃除して回っている。
 ミーコはわたしのとなりでソファの背もたれに身を預けている。
 ときおり窓の外を眺めては寂しげな表情を浮かべる彼女の横顔を見ていると、わたしは胸が苦しくなってくる。
 ミーコにとってはやはり「あの」ルンバでないとダメなのだ。

 わたしはルンバのメーカーに問い合わせた。
 幸いまだあのルンバは廃棄されずに残っているという。
 わたしは事情を説明し、なんとか彼の修理をしてもらうことにした。

 二週間後、送り返した新ルンバの代わりに、あのルンバが帰ってきた。
 筐体の上についたミーコの無数の爪あとも、甘噛みしすぎて剥がれかけたステッカーも、もちろんそのままである。

 電源OFFのままミーコの前にルンバを置いてみた。ミーコは首を傾げながら彼の様子を窺っている。
 やっと状況を理解したのか、ミーコはてくてくとルンバに近づいてゆく。
 ミーコは前足でルンバの筐体をぎゅうぎゅうと押し始めた。まるで心臓マッサージでも施すように。

 わたしはなぜか目頭が熱くなってしまう。
 ミーコはひたすらルンバにマッサージを続けている。あのきまぐれな猫がだ。 

 わたしはミーコの頭をそっと撫でてやり、ルンバのスイッチをONにしてやった。
 緑色のインジケーターがすぅーっと光り、ルンバは息を吹き返した。

 さっそく床掃除を始めるルンバの姿を見てミーコはきょとんとしている。
 やがてミーコはいつものようにルンバを追いかけ始めた。
 追うミーコに逃げまわるルンバ。見慣れた構図に思わず頬がゆるむ。
  
 さて。わたしは夕飯の支度を始める。おっと。ミーコの餌も用意してやらねば。

 ミーコ、ごはんだよ。ミーコ。
 何度か名前を呼んでやっとミーコはやってくる。

 奥の部屋をちらりと覗く。

 ミーコから解放されたルンバはやれやれといった様子でホームに戻っていった。














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posted by layback at 09:46
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