「アニキ、やっぱ山の上まで来ると、空気が違いますね」
「おう。まぁこんな事でもなきゃ、来るこたぁない場所だわな」
「倒産整理っつっても、さすがに牧場はなかなか無いですもんね」
「ところでヤス、ブローカーの森田には連絡したんだろうな」
「ええ、ちゃんと昨日のうちに電話したんですが、おかしいな……。
もう12時なのに、まだ姿が見えないですね」
「ヤツがこなきゃ、このウシさんたちの面倒どうすんだって話だからな」
「まったくその通りですぜ」
『モォ〜〜〜〜』
ブゥ〜〜ン
キキ〜〜
バタン。
「いやー。申し訳ない! 遅くなりました。ワタクシが森田です」
「あんたが森田さんか。遅いじゃねーか、待ちくたびれたぜ」
「いえ、ちょっと道が混んでましてね」
「フン、嘘くせぇ言い訳だが、ま。いいだろ」
「では、早速見せてもらいましょうか」
「今回、あんたに捌いてもらいたいのは、こいつらだ」
「ははぁ、みんなホルスタインですな。全部で何頭でしょう?」
「60頭だ。この柵の中で放されてるのが55頭。あと牛舎に5頭いたな」
「ははぁ、では、みんなホルスタインって訳ですな」
「見りゃ分かるだろ? 牛舎の中のヤツらもみんな白黒だったよ」
「うーん、申し上げにくいんですがねぇ。
ぶっちゃけ今、ホルスタインは売れないんですよ。まったく」
「なんだと? そこをなんとかするのがてめぇの仕事だろうが」
「いえ、うーん、いや、ね。そうは言いましてもね。困りますなぁ。
これが黒毛和牛ならねぇ。引く手数多なのですが。
輸送費やらなんやらで、経費もバカにならんのですよ。
仮に売れたとしても、足は出てしまうでしょうな」
「てめぇ、じゃあこのウシさん達をいったいどうしろってんだ!」
「まぁ、シメてそこいらの精肉所でミンチにでも混ぜますか?
いや、バカな消費者にはバレやしないですよ。ハハハハハ」
「てめぇ……。おいヤス! ちょっと来い」
「はい! アニキッ」
「お前ちょっとこれで……、ひとっ走り行って来い!」
「は、はぁ……」
!!
「なるほど! さすがアニキ! では、すぐ戻りますんで!」
「森田さんよぉ、ま、ヤスが帰ってくるまで、しばらく一服しようや」
☆ ☆ ☆
「アニキ、お待たせしました!」
「よしヤス、買ってきたそいつをよこせ」
「どうぞ!」
ペイントスプレー【黒】
「おう。森田さんよ、黒毛和牛なら売れるんだな?」
ビリッ ベリッ
「え? そりゃまぁそうですが……、いったい何を……」
パカッ
プシュ〜〜〜〜〜〜ッ
「わ! わ! ヤ、ヤメてくださいっ!」
「え? どうだ? その黒いメガネで見りゃあ、みんな黒毛和牛に見えるだろ。
ん? それとも何か? メガネだけじゃあなく体中どす黒く変色させてみるか?
気にすんな。最後にゃミンチに混ぜてやるからよ」
「見えます! 見えます! 全部黒毛和牛です!」
「分かりゃいいんだよ。
金はいい。ウシさん達が安心して暮らせるトコを、
世話してやって……くれるかな!?」
「わ、分かりました!」
「違う。世話してやって……くれるかな!?」
「い、いいとも〜〜!」
実はコレ続編です。
アニキ@、A、B、C D
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