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「三者面談」


さぁ帰るぞぉー。

ヒロシはホームルームで配られた一枚のプリントを二つ折りにし、バッグにしまった。

三者面談か。ったく、ダルいよなぁ。

先生と母親と一緒に話をするなんて、気まずい事この上ない。

思わずヒロシの眉間に皺が寄る。

ま、いいや。今日はクラブも休みだし。

ソッコー家に帰ってゲームすっぞ。

ヒロシが急ぎ足で帰宅すると、母親はリビングで料理の本を読んでいた。

「ただいま」

「あら、おかえり」

「母さん、これプリント。三者面談だってさ」

「あ、そう」

気の無い返事。

ヒロシの母親は、受け取ったプリントを広げ、チラリと見たものの、

また二つ折りにして脇へと置いた。

そっけない態度。

ま、いいや。ゲームゲームっと。

ヒロシは母のリアクションを気にもかけず、階段を駆け上がった。


  ☆     ☆     ☆


そして、面談当日――

「え? 今日から三者面談? マジ?」

うへぇー、カンペキ忘れてた。

ってか、母さん覚えてんのかな?

ヒロシは不安になる。

放課後になると校門で、そわそわしながら母親を待ったのだが、一向に姿は見えない。

おかしい。さっき家に電話をかけても誰も出なかったのに。

面談の時間はどんどん迫ってくる。

えーい、こりゃ俺だけでも先に行っておいた方がいいな。

ヒロシが駆け足で教室に戻り、そっと扉を開けようとすると、

中からトップバッターのアキラが出てきた。

「おーアキラ、面談どうだった?」

「おう、気まずかったぜー」

「やっぱりそうか。あれ? お前も一人かよ?」

はぁ?

何言ってんだコイツ?

アキラはそんな表情でヒロシの顔を見つめた。

「じゃあな」

アキラはヒロシの肩をぽんと叩き、そのまま帰っていった。

なんだアイツ?

ヒロシは気を取り直して、教室の扉を開いた。

「失礼します」

教室のほぼ中央、向かい合わせに置かれた机の一つに、

ネズミ色のスーツを着た男が一人座っていた。

顔を上げた男と目が合う。

「失礼しました」

ヒロシは扉を閉めた。

誰だ? アレ。

見た事の無い人だった。

ヒロシは頭上を見上げ、教室を確認した。

3−B。

合ってるじゃん。

ヒロシはもう一度、おずおずと扉を開いた。

「あのぉー……」

「やぁ。イノウエヒロシ君だね?」

「あ、はい、そうです」

「どうぞ。次はキミの番だよ。さぁ、座りたまえ」

男は立ち上がり、両手を広げてヒロシを迎え入れようとしている。

ヒロシは戸惑いながらも席に着いた。

「あのぉー、担任のヤマモト先生は……」

「ん? キミはプリントをちゃんと見てなかったのかな?」

「三者面談ですよね? 実は母親がちょっと遅れてて……」

男が右手でヒロシの言葉を止める。

「いいかい? 今日は――

第三者面談なんだよ」









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posted by layback at 01:34
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「人生訓」


「もう、おとうちゃん、飲みすぎだよ」

「うぃ〜。マサル! ちょっとこっちにきなさい」

「ええ? なんなの?」

「いいからこっちにきなさい。

いいか? マサル。人生ってのはな、

長ぁーい道のりを、クルマで走るようなもんだ」

「ええ? なんのはなし??」

「人生という道のりを走るクルマのパーツはな、

いわば家族であり、友達であり、

はたまた恋や、努力、勇気であったりするわけだ」

「ええ? さっぱり意味わかんないよぉ」

「バカだなぁお前。いいか? 例えば家族はタイヤ、いやエンジンかな?

恋はアクセル、友達は、ハンドルってとこか。

ま、人それぞれだが、要するに、

どれが欠けても、うまく走ることができない。

つまり、それらのもんを大事にして生きていきなさいって、

父ちゃんは言ってるんだよ! うぃ〜、ひっく!」

「わかったよぉ、じゃあさ、おとうちゃんにとって

一番大事な部品はなんなの??」

「ん? そりゃーお前……

ガソリンだろ。うぃ〜ひっく!」

「……」










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posted by layback at 01:26
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