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「すれ違い」


「何よ!」

「何だよ」

「言いたい事があるなら、はっきり言えばいいじゃない!」

「おい、ちょっと待ってくれよ。

僕は君と口論したくて、ここに来た訳じゃないんだよ。

ほら今まで僕たちは、すれ違いばかりだったじゃないか。

だから今後は仕事量も抑えて、君と過ごす時間を作るから、

もう一度やり直そう。二人が出会った頃の様に」

「ごめんなさい、私が意地を張って、

素直にあなたと一緒に居たいって言えなかったから……」

「もういいんだよ、お互いの気持ちを確認出来たんだからさ、

これ。君に似合うと思って買ってきたんだ」

「嘘、本当に?」

「ほら、指を出してごらん。

うん、やっぱりよく似合うよ」

「ありがとう……」

見つめ合い、寄り添う二人の影は、やがて一つになり、夕陽に包まれていった。

       
     fin


「初めてのデートで不安だったけど、いい映画で良かったわ。

最後のシーン。キャメロン・ディアスの演技が素晴らしかったわよね」

「ん? あ、ああ。実は字幕ばかり目で追っちゃって、

演技を観るどころじゃ無かったんだよね。ハハハ」

「え? そうなの?」

「こ、今度から吹き替えで観ようか」
  
「……」

         


    Fin
     











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posted by layback at 09:54
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「お買い物」


「ングングング……プハーッ」

「あらあら、今日もいい飲みっぷりねぇ」

「やっぱり風呂上がりのビールは最高だな」

「ちゃんと冷えてた?」

「うん、ほどよく冷えてたよ。 ん?

静かだと思ったら、あやはもう寝てるのかい?」

「ええ、ちょっと今日は色々あったから、

あの子も疲れちゃったみたいね」

「色々って、何かあったのか?」

「今日の昼間なんだけど、私の知らないうちにあやったら、

一人でスーパーに買い物に行ったみたいなのよ。

そこで散々駄々をこねて、店員さんをこまらせちゃったらしいの」

「なんだそりゃ。お菓子でも買おうとしてお金が足らなかったとか?」

「そうじゃないんだけどね、とにかくその場は、

丁度居合わせた近所の○○さんの奥さんが、

あやをなだめて、一緒に連れて帰ってきてくれたのよ。

あとでもう一度、ちゃんとお礼しなきゃね」

「おいおい、もったいつけて何なんだよ。

まさか万引きとかそういう事じゃないんだろ。

いったい、何を買おうとしてたんだ」

「それよ」

彼女がしょうがないわね、といった風に私の方を指差す。

「それって?」

私は、一瞬、指差された自分の胸元に目をやる。

「あなたが美味しそうに飲んでるビールよ。

“お仕事で疲れて帰ってくるパパに買うのーっ!”

ってレジで言い張ってたらしいんだけど、

ほら、子供にお酒を売るわけにはいかないでしょ?

地べたにへたりこんで泣き叫んでるあやを見かねた○○さんが

声をかけてくれて、ビールも一緒に買ってきてくださったのよ」

「……」

手に持つグラスに、三分の一ほど残っている琥珀の液体と、

脇に置かれ、水滴を集めた金色のアルミ缶を交互に眺める。

いじらしくて、せつなくて、

どうしようもない気持ちに揺さぶられながら立ち上がる。

「さっき寝ついたところだから、行ってみたら?」

微笑みながら私を見つめる妻の目も、

なぜだか、ほんのり潤んでいるように見えた。











アヤちゃん @ A


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posted by layback at 21:47
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