「ハイ、次の方どうぞ〜〜」
なんだ。この髪の毛を変な色に染めた男は。
検診の場にそぐわないこと、この上ない。
白衣が白々しいほど似合わない。
オレの呆れっぷりをよそに、
男は視力検査の説明を始めた。
「では、それで片目を押さえてもらって、
今から僕がこのスティックで指すところを見てくださいねー」
男が眼鏡越しに左目でバチっとウインク。
(オエッ)
小太りのオッサンのウインクは要らん。
「ハイ、ではまず、この列はどうかな?」
「ええと、右、上、右」
「ハイ、じゃ、ひとつ下がってこの列」
「えー、左、下、上」
「ハイ、ではもうひとつ下がってみよう、この列は?」
「うーん……上、右、下?」
「ハイ、よく見えてますね、では最後の関門です」
最後の関門? なんだそりゃ。
男は白衣の腰に両手を当てて、ニヤリと笑う。
オレの頭の中では“???”マークがクルクルと回っていた。
「ハイ、よく見てー、この列はどうかな?」
「うう……」
一番下段のその列は、かなり細かい字だった。
まるで黒ゴマのようにしか見えない。
でも、この男に参ったするのも悔しい。
ズルだが思いっきり目を細めてみた。
「右、右、うーん……8?」
いや違う。
8じゃない。
カモン、オレの眼力。
「右、右、B?」
いや、もしや……
「C・C・Bかよっ!!」
ってことは、こいつ……
男は得意げにニヤリ、白い歯がキラリ。
右手にはドラムスティックが握られていた。
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