クソッ、歯が痛ぇ。
ただそれだけでイライラしていた。
そんな俺の気も知らずに、アイツらときたら
神聖な事務所でガキみてぇに騒ぎやがって。
特にテツの野郎、アイツは耳が少し弱いからか、
とにかく声がでけぇ。しかも性格もバカに陽気で、
ウチのムードメイカーではあるのだが、
今日に限っては我慢がならなかった。
「コラァァッ!!! お前ら事務所を何だと思ってんだ!!」
三人が突然の俺の声に肩をすくめ、その場で直立不動になった。
「特にテツッ! 何だお前のそのバカデカイ声はっ!」
「は、はいっ! スミマセンっ!」
「お前みたいなのをなぁ! 便所の100ワットって言うんだっ!! この大バカ野郎!!」
「は、はい、アニキっ!」
テツは一瞬、呆然と俺の顔を見つめると、
落ち込んだ様子で背を向けた。
おっと、ちょっと言い過ぎちまったか??
などと頭によぎるが、毅然とした態度を崩すわけにはいかねぇ。
そのままテツの背中を見守ると、
ヤツは肩を落としたまま部屋を出て行った。
ほどなくして、トイレのドアの閉まる音がする。
事務所の中には気まずい空気が流れていた。
ヤスもマサも視線を落として、口を開こうとしない。
5分。
10分。
15分。
もう、沈黙も限界だった。
「おいヤス! ちょっとお前トイレ見てこい!」
「は、はい、アニキ」
ヤスは立ち上がって部屋の入り口に向かうと、
ドアを開き、廊下に半身を乗り出した。
「アニキぃ〜」
部屋の中を振り返りながらヤスが情けない声を出す。
「なんだかテツの野郎、呻き声を上げてますぜ〜」
やっぱ泣いてんのかよ。
「分かった分かった、ちょっと中を覗いてきてやれ! もういいからって!」
やはり言い過ぎたか……。
アイツはバカだが繊細なトコロがあるんだよなぁ。
俺は兄貴失格だ。
「アニキっ!」
「どうしたヤス!?」
「テツの野郎……
便所でスクワットしてますっ!!」
……。
力が抜けた。
「もうちょっとやらしとけ!!」
アニキ@、A、B、C D
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