庭にそびえ立つ大きなクスノキの葉を通して拡散した陽の光がわたしの膝をきらきらと撫でていた。
風に揺れ、葉と葉が触れあって奏でる音が耳にやさしい。
空に目をやると、夏の雲がセミの鳴き声を吸収して、もくもくとふくらみ続けていた。
田舎の家ならではの広い庭で、子供たちは虫取り網を手に駆け回っている。
わたしは年老いた父とともに子供たちの成長に目を細めながら縁側に座り込んでいた。
「お前達が子供の頃は、みな川で遊んでは真っ黒に日焼けしてたもんだがのぉ」
父はそう言うと、水滴のついたグラスから麦茶をすすった。
「お父さん、この子達だって海や川で遊ぶ機会は少ないけど、ちゃんとプールでは泳いでるのよ」
「じゃあ、どうしてみな色が白い」 父は不思議そうに言う。
わたしは言うかどうか迷ったが、けっきょく言った。
「このあいだね。用務員さんがプールに塩素を撒きすぎたのよ」
ショートショート:目次へ
タグ:ショートショート