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「井戸端会議」


「ちょっと奥さん! あそこのご両親、また学校に怒鳴り込んだらしいわよ」

「ええっ? またなの? ちょっと度が過ぎるわよねぇ」

「やれ、息子の出席番号が気に入らないだの、

給食のメニューをなんとかしろだの、くだらない難癖付けてねぇ」

「最近はどこの学校でも、同じような親御さんがいるみたいだけど……」

「そういえば、昨日も夕方のニュースでやってたわよ」

「学校にクレームをつける親が急増! ってヤツでしょ?

そんな親の事をモンスターペアレンツって呼ぶらしいわね」

「それって、まったく……」

『失礼しちゃうわよねぇ〜〜〜!!』

キバをキラリと光らせる江藤さんの奥さん。

体中の毛をブワッと逆立てる大神さんの奥さん。

二人とも怒りの形相で、思わずここだけユニゾンだ。

「まったく、人間の親が一番タチが悪いのにねぇ……」










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「ブザービーター」


亮二は目頭を押さえながら座席に座っていた。

また今日もこんな時間になってしまった。

7月に入ってからここ数週間、休みらしい休みもとれず、

ギリギリ終電に乗り込んで帰るような日々が続いていた。

「今日は優介の誕生日だから早く帰ってきてね。」

早朝、家を出る時に妻にかけられた言葉が頭によぎった。

確かに今日は少し早いが……

息子の優介はとっくに眠りに就いているだろう。

結局、誕生日プレゼントを買う時間も無かった。

父親失格だな。

自己嫌悪と疲労で、身体がひどく重く感じられた。

ふぅ、とため息をつき、窓の外に目をやると、流れる景色の速度が徐々に落ちてゆく。

もうすぐ駅に着くようだ。

亮二は、車内のアナウンスに引き起こされるように立ち上がり、

生ぬるい空気の待つ車外へと降り立った。

改札を抜け、人気の無い小路を進む。

女性が一人だと気味が悪く感じるほどの暗さだった。

重い足取りでしばらく歩くと、自宅が見えてきた。

リビングの明かりがカーテン越しに僅かに洩れている。

2階の子供部屋を見上げたが、当然そこは闇に覆われていた。

薄明かりに照らされている門扉の前まで辿り着き、

ふと腕時計を見ようとしたその時。

ガサッ。

門柱の呼鈴のあたりに何かがぶつかり、地面に落ちた。

何だ?

目を凝らし、足元を見回してみる。

いた。

手のひら大の黒い塊が、もぞもぞとうごめいている。

一瞬躊躇したが、そっと手を伸ばし、そいつの脇腹を捕まえた。

クワガタだ。

しかも大きなオスだった。

どうやら門柱の上に取り付けられた常夜灯に惹き寄せられたようだ。

とても元気で、水牛の様な角を振り回し、激しくもがいている。

子供にとっては、黒光りする真夏のダイアモンドだ。

思いもかけぬプレゼントに、優介はきっと大喜びするだろう。

不思議なことに、身体全体に感じていた重みが、

ほんの少しだけ、軽くなったように感じられる。

亮二が玄関の扉を開けたと同時に、

時計の針が今日の終わりを告げていた。











※「ブザービーター」とは、
試合終了のブザーが鳴る直前や、
鳴ったと同時にゴールに入るシュートのこと。



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