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「一夫多妻」


女性キャスターがアンニュイな表情でニュースを読んでいる。

女子に比べ、男子の出生率が年々低下しています。
国民に占める男女の比率が今後大幅に変化していく事を見越して、
今国会では、一夫多妻制を認めるかどうかの議論が与野党間で行われていましたが、
野党や世論の大きな反発を受け、結論は当分先送りされる事となりました。

「ねぇパパー、いっぷたさいせいってなにー?」

「ん? ああ要するに一人の男の人が何人もお嫁さんを貰ってもいいって事だよ。

でも、日本じゃムリだろうねぇ」

「どうしてムリなのー?」

「ほら、やっぱり女の人としては、自分だけを愛して欲しいって思うんじゃないかな? 

あやちゃんだってそう思うでしょ? まだ分かんないかな。ハハハハハ」

「分かるもん! あやいっぷたさいがいいよぉー」

「ええ? なんで?」


「だって、パパとけっこんするんだもん」


娘よ……。(涙)











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posted by layback at 08:45
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「紫陽花」


涼子と会うのは――

かれこれ三年ぶりか?

雄太は待ち合わせ場所の駅前広場で、

植え込みに咲く紫陽花の花びらを右手でいじりながら、

そんな事を取りとめもなく考えていた。

午前中から霧のような細かい雨が降り続き、

薄紫色の花びらをしっとりと湿らせている。

駅舎に備え付けられている大時計を見ると、

すでに約束の時間を十分ほど過ぎていた。

しかし、雄太はいらだつ事も無く、

その静かな眼差しを、再び紫陽花の花びらへと戻した。

この時間が逆に、彼の心を落ち着かせる為には良かったのかもしれない。

何しろ久々に彼女と対面するのだから。

当然、三年という歳月は、二人の容姿にも変化を与えている。

その間、お互いの写真すら見ておらず、

書面でしか連絡を取っていない二人にとって、

今度の再会で緊張するな、という方が無理な話であろう。

はじめになんと声をかけていいものか、

雄太はこの待ち合わせ場所に至っても、

まだその答えを見つけかねていた。

閉じた左手に握り締めた物が、

気持ちを代弁してくれればいいのだが……

雄太が、もう一度、

時計へ目をやろうと振り向きかけた、その時。

通りの先からクルマのエンジン音が聞こえてきた。

左折してきたトヨタの白いセダンが、ロータリーをゆっくりと回り、

彼の待つ植え込みの側から10mほど離れた場所へ停車する。

ほどなくして、静かにドアが開き、後部座席から女が降りてきた。

白いワンピースの裾がヒラリと揺れる。

間違いない、涼子だ。

水色の小ぶりな傘を右手に持っている。

彼女が相変わらずの丸く大きな瞳で辺りを見回すと、

肩口まで伸びた焦げ茶色の髪がふわりと弾んだ。

彼女は雄太の姿を見つけたようだ。

微笑を浮かべながら近付いてくる。

目の前まで来た涼子に対して、雄太は無言のまま、

そっと、左手を差し出した。

グーに握った拳を、彼女の顔の前でクルリと回し、

手の平を上にして、ゆっくりと開く。

「うわぁ! お兄ちゃん、これどうしたの?」

「……学校で工作の時間に作ったんだ」

「すごい! この薄紫色のガラス、きれい!」

「これは海で拾ったガラス玉だ。あとは針金だけどな。

お前、小さい頃から指輪が欲しいって、いつも言ってただろ?」

「お兄ちゃん、私の為に作ってくれたの?」

「まぁ、ついでだけどな」

「ありがとう!」

彼女は大きな瞳をキラキラさせながら、

雄太の掌から指輪を取り上げると、左手の薬指にはめた。

そして今日はきっと出番のない太陽を、

透かして見ようとするかのように、

小さな手を空にかざしている。

予期せぬプレゼントに夢中になり、無邪気に喜ぶその笑顔は、

雄太の記憶にある四歳の頃の彼女と、何の変わりも無かった。

霧雨は飽きもせずに降り続き、白いセダンの側では、

二人の両親が難しい顔で、なにやら話をしていたが、

そんな事は今の二人には何の関係も無かった。

色を失い、くすんだ駅前の景色の中、

紫陽花の花と涼子の着けた指輪だけがほのかに光を発し、

浮かび上がっているような、

雄太の目には、そんな風に見えた。












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posted by layback at 00:54
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