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「謎の肉」


【また神戸で小学生が行方不明。今月に入って5人目―】

俺が新聞の一面を読もうとしていると、携帯電話が鳴った。

神戸に住んでいる女の友人からだった。
コイツはテレビも見ない、新聞も読まない。
面白いが少し変わった女だ。

「はい」

『もしもし〜、涼くん? ちょっと聞いてよぉ〜。あ。今大丈夫だよね? こないださ、神戸の中華街に行ったのよ、久々に。行きつけの美味しい店なの。ま、店員は無愛想なんだけどさ。そしたらさ、味が違うのよぉ〜。え? 何言ってんのよ。そんな久々だからってあたしの舌はごまかせないわよ。なんだか肉の味がおかしいのよねぇ。豚バラ煮込みなんだけどさ。味付け自体はそんなに変わってないはずなのに、下処理のせいかなぁ。肉がねぇ、へんな臭みがあるのね。今まで食べた事のない肉のような。不思議だと思ってね。店員のおばちゃんに聞いても、首を横に振るだけなの。日本語バッチリ分かってるくせに。腹立たしいったらありゃしない。それに、あろう事か、鶏のスープには髪の毛が入ってるのよ! しかも5本も、6本も! そりゃさすがにおかしいと思うじゃない?あたし、トイレに立ったついでにね、ちょっと身を乗り出して、厨房を覗いてやったの。え? もちろんオバチャンの目を盗んでよ。そしたらさ、何が見えたと思う? そう! 料理長が変わってやがるの! あ。それとね、そいつ調理帽もかぶってないのよ! あたし、思わず言ってやったわよ――

w、wooooo

w、wooooooo

え?

何?

今聞こえたうなり声なんだ、って?
犬よ犬! ウチで飼ってるイ・ヌ・!』

「分かった。その話の続きはまた今度聞くよ。悪いけど今、手が離せないんだ。ああ。悪いな。また俺から電話するよ」

『ちょ、ちょっと! 涼く――』

電話を一方的に切った俺は部屋を振り返った。

さぁ、どうする?

柱に縛り付けたフレッシュなベイビーが、俺の顔を見て震えている。

もう少し待てよ。

新聞を読み終えたら、かわいがってやるからな。

そうだ。

そろそろ。あの残骸もなんとかしなきゃな。

近所の住民から苦情が来る前に。

ここ一ヶ月。

窓もカーテンも締め切ったままの奥の部屋からは、

異様な臭いが漂ってきていた。












    
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「ミートホープレス」


とある居酒屋での会話。

「まったく、お前も大変だよなぁ」

「ああ、参ったよ。
従業員も全員解雇になるかもって話だしさ。
オレは一体どうすりゃいいんだ?
ついこの間、クビを免れたところなのによぉ」

「クビになりかけた? 初耳だぞ。一体何をやらかしたんだよ?」

「大チョンボだよ、例の牛肉コロッケにさ、
うっかり混ぜちゃったんだよ。それが社長にバレてなぁ。
てめぇ何考えてんだ〜〜〜! ってさ。
オレも速攻、土下座だったよ。
あのオヤジ、怒らせると手が付けられないの知ってるだろ?」

「いや、社長が怒りっぽいってのは聞いた事あるけど、
クビになりかけたって、よっぽどじゃないか。
一体、何を混ぜたんだ???」


「牛肉だよ」









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