ちっ。リーチもかかりやしない。
わたしは煙草に火を点け、大きく煙を吐き出した。
隣の客が煙たそうに手で扇ぐ。なんだ。感じの悪い奴だな。
ちらりと横目で見る。裾の破れたジーンズ。かかとの踏まれたスニーカー。
だらしない格好の若者だった。
まったく最近の若いもんは。
昼間っからパチンコなんか打ってからに。親の顔が見てみたいよ。
目線を上げると汚らしい金髪が目に入る。案の定、悪そうな顔つきをしている。
この手合いとは関わらないほうがいい。わたしは自分の台に目を戻した。
いっこうに当たる気配がない。
上皿の玉は川の流れのようにおだやかに流れ、台に吸い込まれていく。
今日はもう駄目だな。
玉が全て無くなり、席を立ちかけたところでリーチがかかった。
どうせ当たるはずがない。とは思いつつも絵柄の動きを目で追う。
ほら外れた。
と、突然絵柄が走った。ノーマルリーチの再始動。大当たり確定だ。
が、玉はもう一球もない。焦る。
慌てて財布を取り出そうとしたところ、隣の若者が自分の玉を鷲掴みにして、わたしの台の上皿に流し入れてくれた。
「す、すまんね」
わたしは気まずい思いでラウンドを消化していった。
途中、ドル箱から玉を一掴みし、隣の若者に返した。
「ありがとう」 そう言って一応軽く頭も下げる。
「良かったっすね」 金髪の若者はこちらを向き、無邪気な笑顔を見せた。
わたしは思う。
最近の若者も捨てたもんじゃない。
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