人間は疲れる。だからおれはねこになった。なるほど。のらねここーすをごきぼうですか。のらねこはいっけんきままきらくにくらしているようにみえるでしょうがああみえてなかなかたいへんなのですよ。せんえつながらあなたのようなねこびぎなーはさいしょはにんげんにかわれてしまったほうがよろしいかとぞんじます。そうすればすくなくともくいっぱぐれることはありませんからね。というわけでここはいえねここーすにしておきましょう。なおひろわれやすいばしょにつきましてはわたくしめがせきにんをもっておつれいたしますのでごあんしんを。まだごしんぱいですか。なににんげんなんててきとうにあしらっておけばよいのです。たまにからだをすりすりすりよせてにゃんにゃんにゃーんとないてあまえるふりでもしておけばかれらはすぐにまんぞくするのです。ねこねこかんぱにーのたんとうしゃはそういっていた。ところがじっさいにひろわれてみるとどうだ。にんげんはおのれのすとれすをかいしょうせんがためにしろくじちゅうべたべたべたべたとおれのからだをさわりまくるではないか。そうすることでおまえさんのすとれすがどこかへとんでいってしまうとでもおもっているのかね。いいか。そのすとれすはそのままおれのすとれすになりかわっているのだよ。そんなこともわからんのかね。このこむすめは。こんなことならたんとうしゃをむりやりおしきってでものらねここーすをえらんでおけばよかった。そっちのほうがよっぽどやすかったのだ。たかいりょうきんをしはらわされたうえにさらにすとれすまでしょいこまされるだなんてまったくふんだりけったりではないか。ぐちをこぼしているあいだにぐぐぐとまぶたがおちてくる。ねこになってからまいにちねむくてねむくてしかたがなかった。ねこがよくねているりゆうがよくわかった。このきょうれつなねむけはとうていあらがえるものではない。ねむくなったらすぐねむる。はらがへったらめがさめる。めしをくったらねむくなる。いまではまいにちがそのくりかえしだった。まぶたのおもみにあらがうことをあきらめておれはしずかにめをつむる。ねむりのふちにくびまでつかったところでせなかをなでられる。おい。なれなれしくおれのからだにふれないでくれ。それにしてもこのにんげんのなでかたはあらっぽい。どうせまたかいしゃでいやなことでもあったのだろう。いっそのことおまえさんもねこになればいいのだ。なんならおれがねこねこかんぱにーをしょうかいしてやろうか。いやあそこはやめておいたほうがいい。おれにいえねここーすをすすめたあのたんとうしゃときたら。まったくしんようならん。わるいことはいわん。ねこになるならほかのかいしゃをあたりたまえ。そうこういうまにまたまたまぶたがおちてくる。とにかくおれはねむいんだ。たのむからそっとしておいてくれ。おれのこころのさけびはにんげんにはつたわらない。にんげんはおれをだきあげる。もうにげるきりょくもない。おれはこむすめのやわらかなむねでねむりにおちながらおもう。やはりにんげんはつかれる。
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