「ママわぁー、今日もぉー、キレイだねぇー」
「もう、なにバカなこと言ってるのよ」
「何がキレイって歯がキレイ! なんつってハッハッハー」
「××ちゃん、あんた飲みすぎよ」
「るっさいなぁー、いいんだよ。
いいかいママ、男にはね、飲みたいときもあるんだよぉー。
あー、俺は不幸だー、世界で俺だけが不幸だなんて不公平だーっ!」
「いい加減にしなさい!」
「はーいはいはい。こわいこわいあーこわい。
ねーママ、そんなことよりさぁ、なんかおもしろい話ないのぉー?」
「まったく、自分だけが不幸だなんて、思いあがりもいいとこよ。
ふぅ、けどまぁいいわ。話してあげるから、よく聞いて。
昔々、あるところにえらく男前のサラリーマンがいたの。
当然モテモテよ。社内社外に拘らずね。
ある日の週末。彼は、某所のクラブに行きました。ああ、昔だからディスコね。
一流会社勤務で顔もよくて、遊び慣れてる男なんだから、入れ食いよね。
彼は、この日もまんまと、一人の女の子をゲットしました。
店の外に出た彼はタクシーを拾って、彼女をホテルに連れ込もうとしたんだけど、
到着を待ち切れない二人は、車内でコトを始めちゃったのね。
まぁ運転手は見て見ぬフリよ。キスから始まって、彼の手はすぐ彼女の胸に。
これがまた熟練の手つきなもんだから。
彼以上にムラムラしちゃった彼女は、迷わず彼の股間に顔を埋めたわ。
チャックを開けて、ぴちゃぴちゃと。それはそれはいやらしい音を立てたものよ。
走行中は揺れが激しいし、なかなか難しいんだけど、ちょうど信号待ちになったのね。
そこで彼女は、ここぞとばかりに彼のモノを根元まで咥えたのよ。
まぁサイズ的にも、そんなに大きくなかったのかな。
その瞬間。
ドーーーーーーン。
そう。
オカマを掘られたのよ。そのタクシー。
衝撃で強制的に噛み合わされた彼女の上下の歯は、彼のモノを見事に根元から分断したわ。
吹き上げる血潮。
ぐじゃぐじゃになった切断面を押さえ悶絶する男。
彼女の口からは、主を失った血まみれの肉棒が、ミサイルのように吐き出されて、
砕け散った白い歯が、映画館で買ったばかりのポップコーンのようにボロボロと床にこぼれ落ちたわ。
ピンク色の泡と一緒にね。口から泡吹いてまるでカニよカニ。
運転手はハンドルに頭を打ち付けて気絶してるしね。
結局。
生死には係わらなかったものの、接合手術は失敗に終わり、彼は大事なモノを一生失ったのよ。
ねぇ。××ちゃん。彼と比べたら、女に振られただけのあんたなんて、むしろ幸せ者でしょ?
さぁ、そのお水を飲んだら、もうおうちに帰りなさい」
……。
「ねぇママ……。
ママってよく見ると、男前だよね。オカマちゃんになる前は……」
「だーめ。もうお話は終わりよ。
さぁ早く上着を着なさい。タクシーを呼んであげるからね」
ショートショート:目次へ