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「神か悪魔か宇宙人」


むにゃむにゃ。

なんだかまぶしい……。

気がつくと、目の前に、背の高いおじさんが立っていた。

「うわっ」 ぼくは驚いてベッドから転げ落ちそうになった。

「どうした少年。驚くことはない、これは夢の世界だ」

「お、おじさん、誰?」

ぼくが声を上げると、枕元に置いていた本が床に落ちた。

「わたしは神様だ。それよりなんだこの本は」

おじさんは長い背を折って、床から本を拾い上げた。

「それはショートショートの本だよ。読みながらぼく寝ちゃったみたい」

「えらく古い本じゃないか」

おじさんは難しい顔つきで、ぱらぱらとページをめくった。

「だって、最近のショートショートは、ちっとも面白くないんだ。
ぼくは、宇宙人やロボット、悪魔とか神様の出てくるお話が好きなのに、
そんな話はもう散々書き尽されてるとかなんとかいう理由で敬遠されてるみたい。
時々、見つけても、どこかで聞いたようなお話ばっかりだし……」

「そういえば最近、そんな話を読んだな」

「ええっ!? 神様の住んでるところにも、図書館あるの?」

「もちろんある。図書館もマンガ喫茶もあるぞ」

「すごーい」 

「その本の中では、宇宙人、悪魔、ロボット、それに神様、みな勢ぞろいだ」

「おもしろそう!!」

「お前は、近頃の子にしては珍しく本好きのようだ。よし、明日、その本を届けてやる。ただし――」

「うん! ぼく、ちゃんといい子にする!」

「――着払いだぞ」

……。

「分かったよ。 ぼく、お小遣いでなんとかする。神様、ありがとう!」

ぼくの返事を聞いたおじさんは、にたーっと笑って暗闇に消えた。

ぼくはそのまま朝まで寝ちゃったようだ。

学校が終わって家に帰ると、青と白の縞々シャツを着たお兄さんが、ダンボールを届けてくれた。

本当に着払いでびっくりした。

箱を開けると中には――

ドラゴンボールが全巻入っていた。

それと本物のドラゴンボール(一星球)がひとつ。

ぼくは、マンガを抱えたまま自分の部屋に駆け上がって、夢中になって読んだ。

「荷物、何が届いたの?」 

晩ごはんの時、ママに訊かれた。

手にはダンボールに貼ってあった紙が握られていた。

「送り主:星新一、住所:天国。ってなってるわよ」

おじさんはショートショートの神様だった。











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「ノックの音が」


ノックの音がした。

俺は夕食を食べ終え、台所で洗い物をしていた。

両手の水気を切り、薄くドアを開ける。

「どちらさま?」

目の前には小柄な女性がいた。見た感じでは、おそらく60歳前後だろう。

「夜分にすみません、1階に住む者ですが……」

申し訳なさそうな表情で女性は言った。

続く言葉を俺は瞬時に予想する。

このところ夜型の生活パターンが続いていた。

俺が深夜に立てる物音のせいか。

つまり、苦情か。

女性の口が開く。

「実は、主人がお風呂に閉じ込められてまして」

「……は?」

どういうことだ?

状況が飲み込めない。

動揺しているからか、女性の説明はいまひとつ要領を得ない。

こちらから質問をしながら聞きだしてみると、どうやらこういうことらしい。

女性が、別居中の夫の元を訪ねたところ、ドアに鍵がかかっていた。

チャイムを押すと、中から返事は返ってくる。

どうも、風呂に入ったはいいが、なにかの加減で、浴室の扉が開かなくなったらしい。

ところが女性は部屋の合鍵を持っていなかった。

ご主人と同居する弟は鍵を持っているのだが、帰宅時間が分からず、携帯も繋がらないのだという。

大家が近くに住んでいれば、合鍵を借りようと思い、俺の部屋へ大家の所在を訊きに来たというわけだ。

あいにく大家の家は、ここからかなり遠かった。すぐに鍵を借りることは不可能だろう。

苦情でなかったことにホッとはしたが、自分の母親と同世代の女性を、このまま外に放り出しておくわけにもいかない。

俺はサンダルを履き、女性と共に階下の様子を見に行った。

一応確かめてみる。

玄関のドアはきっちりと施錠されている。

女性は、ドアの下から三分の一程度の位置にある新聞受けの隙間に顔を寄せ、声を張り上げた。

「もうちょっと待ってて」

『もう、扉を蹴破るぞ!』

中からくぐもった声が聞こえる。ご主人はそうとういらだっている様子だ。

部屋に入ることさえ出来れば、なんとかなるだろう。

そう思った俺は、玄関ドアの脇にある台所の窓を確認した。

施錠されている。

下から上に窓を押し上げ、窓枠ごと外せるかと思ったが、それほど建て付けに遊びはない。

窓ガラス同士の隙間もなかった。これでは針金を差し入れることも不可能だ。

次に俺は、建物の裏手に回り、ベランダの様子を窺った。

蛍光灯の薄ら寒い明かりが、闇に漏れ出している。

部屋の窓は閉まっていた。施錠もされているようだ。

なんと。

こいつは二重の密室じゃないか。

不謹慎だが、まるで小説の中のような状況が、おかしくてしょうがなかった。

一度、表に戻った俺は、玄関先で待つ女性にひとこと断りを入れ、ベランダからの侵入を試みた。

手すりに両手をかけ、懸垂の要領で一気に身体を持ち上げる。

やはり鍵はかかっていた。

カーテンの隙間から、生活感溢れる和室の光景が覗き見えた。

しばらく調べてみるも、台所の窓と同様に、突破口は見つからない。

これでは窓を破りでもしない限り、部屋には入れないだろう。

諦めた俺は、ベランダの手すりを飛び越えて、芝生の上に降り立った。

植え込みの側を歩き、建物の表に回りながら考える。

残された方法は二つ。

新聞受けから針金状のものを差し入れ、ドアノブのつまみを回す。

もしくは同様に針金を使い、換気扇のダクトから台所の窓の鍵を開ける。

俺は女性に、少しその場で待つように伝え、自分の部屋に戻った。

ベランダに出、針金ハンガーをひとつ手に取る。

自室の入口付近の構造と位置関係を確かめる。

針金の先でドアノブのつまみを回すのは難しそうだ。

ならば――

ハンガーの首の部分をひねり、全体を一本の棒状に伸ばす。

計ってみると、換気扇から台所の窓までの距離は問題ない。

ためしに、先端をリング状に整えたハンガーを窓鍵に引っ掛け、押し下げてみる。

カチャリ。

これならなんとかなりそうだ。

俺は階下へ戻り、自転車置き場から一台、荷台の付いたママチャリを拝借した。

玄関のドアの前にそいつを横付けにして、女性に支えてもらう。

荷台の上に両足で立った俺は、換気扇からのルートを攻める。

油汚れで手が滑り、なかなか思うようにハンガーがコントロールできない。

身体をのけぞるようにして、擦りガラス越しにハンガーの位置を確認する。

ここをこうして――

よし。

リングが窓鍵に引っかかりそうだ。

いける。

『もう開いたぞ!』

部屋の中から大きな声。

なんと。

ご主人は自己解決し、浴室から脱出したようだ。

俺の両腕からへなへなと力が抜ける。

俺は転ばぬように気をつけつつ自転車の荷台から降りた。

玄関のドアが内側から開けられる。

「ほんとうに、ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」

平身低頭、詫びる女性。

あろうことかご主人は、最後まで外に出てこなかった。

まぁ照れくさくもあったのだろうが。

「お名前だけでも教えていただけますか?」 女性は言う。

「いえいえ名乗るほどのことはしてませんし」

実際そうだ。俺はちっとも役に立ってない。

「そんな……」

「それでは失礼します、おやすみなさい」

俺は笑顔でそう言い残し、自分の部屋へと戻った。

針金のオブジェと化したハンガーをくずかごへ捨てる。

虚しい。

頭に浮かぶのは、

ただその一言だった。











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posted by layback at 00:43
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