やっと昼休みだ。
さつきはオフィスの壁に掛けられた時計を見やり、ぐいと伸びをする。
今日は、寝坊した上に、生理も二日目で、どうにも身体が重い。
外までランチを食べに行く気には、とてもなれなかった。
トイレに行ったあと、廊下に置かれた自動販売機で、野菜ジュースを買う。
ダイエットにもなるし、ちょうどいいや。
節約節約。
外でランチを食べてコーヒーを飲むと、それだけでもう1000円コースだ。
よく考えてみるとばかばかしい。
弁当を作ればよいのだが、忙しい朝にそこまでする気力はない。
フロアに戻るとすでに人気はなく、唯一、隣の課の窓際で、
先月異動してきたなんとか係長が、パソコンとにらめっこしている。
口元がだらしなくにやけ、ハゲ散らかした頭は、
ブラインドの隙間から射す光で、ゼブラ模様になっていた。
さつきは自分のデスクへ戻り、マウスに手を伸ばした。
昼休みに外へ出ない日は、もっぱら、パソコンでネット小説を読んでいた。
検索窓にサイトの名前を放り込み、お目当てのページへ飛ぶ。
やった。
更新されてる。
最近は作者が忙しいのか、やる気がないのか、更新ペースがひどく遅かった。
先月なんて、たったの一回きり。
もうちょっとやる気だしてくださいよ。
とでもコメントしようかと思ったが、そこまでする勇気はもちろんない。
それに会社からの書き込みはさすがにまずいだろう。
まぁ、あまりうるさい会社ではないので、
休憩時間のネットサーフィンぐらいで、とやかく言われることはないのだけれど。
この作者のページは、一話読み切りで分量も少ないため、昼休みに読むにはうってつけだった。
わざわざ連載長編を追いかけるほど小説好きではないし、まして家でネット小説を読むこともない。
そう、ほんのひまつぶしなのだ。
さつきはマウスを持つ手をふと止める。
やっぱり、コメントしてみようっと。
カタカタとキーボードを打つ音が、無音のフロアにこだまする。
打ち終えたさつきは、しばし文面を見る。
これじゃ味気ないかな……。
でも、いきなり、ペラペラと熱く語り出しても気持ち悪いだろうし。
まぁいいや。と投稿ボタンをクリックする。
野菜ジュースを飲みながらメールをチェックし、数分後、
コメントが反映されているかどうか、小説サイトへ確かめに行った。
はじめまして。いつも楽しく読ませてもらっています。
今日の作品も、読みやすくて、面白かったです。
今後の更新も期待しています。
Posted by メイ at 2009年05月11日 12:15
>>メイさん
はじめまして。コメントありがとうございます。
今後も頑張って更新しますので、応援よろしくお願いいたします^^
Posted by Tバック at 2009年05月11日 12:18
レス早っ。
作者さんも今、ちょうど昼休みなのかな……。
さつきは、画面の奥深く、プロフィールも顔も、なにも分からぬ作者を想像する。
と、どこからか視線を感じて、顔を上げた。
遠いデスクの向こうから、隣の課の係長が、さつきを見ていた。
さつきがにこりと愛想笑いを浮かべると、なんとか係長もぎこちない微笑を返した。
二人してほぼ同時、ディスプレイに目を戻す。
まさかね。
さつきは鳴らない口笛を吹き、静かにブラウザを閉じた。
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