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「クリスマスプレゼント」


「お。編み物かい? アヤもやっと女の子らしくなってきたな」

「だって。あたしもう中学生だもん」

本人は怒ったようにそう言うものの。

ツンとあごを背けるしぐさは、まだまだ子供っぽいものだ。

そんな娘の姿を見ていると、つい、わたしの頬も緩み、軽口が出た。

「まさか、彼氏へのクリスマスプレゼントじゃないだろうな?」

アヤはそっぽを向いたまま返事をしない。

会話を聞いていた妻が、あきれた表情でリビングに入ってきた。

「あなたってば、何をいまさら……、もう家にも遊びに来てるのよ」

「な、なにぃ!?」

顔が一瞬で紅潮するのが自分でも分かる。

「許さん! 絶対に許さん!」

「バカね。あきらめなさい」

「駄目だ! いったい誰の許しを得て――」

「高校生の頃、親の目を盗んであたしの部屋に忍び込んでたのは誰よ」

「う……」

言葉に詰まる。

それは言わない約束だろう……

「喜んでくれるかなー」

アヤは編み上がった作品を、天井の照明にかざすようにして検めている。

「ワタルくんってばお腹が弱いから、腹巻きを編んでみたんだけど。どう?」

「うん、なかなか、初めてにしては上手じゃない」

許さん……

パパは許さん……

わたしのつぶやきをよそに母娘の会話は続く。

「あれ? アヤ、これは何? 

なんだかこの部分だけ、靴下みたいに飛び出てるわよ。失敗しちゃった?」

「ああ、それはいいの。だって、こないだおばあちゃんが言ってたんだもん。

『いいかいアヤちゃん。おばあちゃんは反対だよ。

ああいうタイプの男は大抵、腹にイチモツを――












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「ジョブチェンジ」


「なかなか仕事ってみつかんないもんだな」

俺がひとり言のように愚痴ってみると。

「まー不景気だしねー」

香織は姿見の前で、舞いながら返事をする。

どうやら。友人の誘いで始めたフラメンコとやらにハマっているらしい。

俺はちゃぶ台に片肘をついて缶ビールを呷った。

「だからさー。ロールプレイングゲームみたいに、

もっと簡単に転職できたらいいんだよな」

「何それ。いわゆるひとつのジョブチェンジ?」

「そうそれ。で、なんで長嶋?」

俺の突っ込みを、香織は華麗にスルーする。

「じゃあマァくんのジョブチェンジ歴はー、

会社員→リストラ→パチプロ→派遣社員って感じだね、ハハハハ」

「……。リストラってジョブなの?」

それにハハハって笑ったよコイツ。ハハハって……。

「やーだ。まだ傷付いてるんだ? いい加減忘れなよ」

フン。

俺はまたグビリ。

香織の舞はじょじょに激しさを増す。

掃除はおろそかな俺の部屋。

当然、捲き上げるほこりもハンパない。

嗚呼。俺のおつまみ。モロキュウ哀愁。

「まぁ引きずってる訳でもないけどさ。あれは痛恨の一撃だったんだよ」

「まーそうだよね。で、ジョブチェンジできたら何になるのよ? 戦士? それとも賢者?」

「そりゃーまーやっぱし――、

遊び人だろ」

「死ねよ」

「いてっ。バカ、グーはよせ、グーは」

「あたしだったらねー、今OLでしょ、その次はお嫁さん→お母さん。でも、最終的には舞踏家かな」

香織は、照明を抱くかのように両手を天井に広げ、うっとりと目を閉じる。

「武闘家ね。キミならすぐになれそうだよね。うんうん」

それ、フラメンコっつうより太極拳だもんね。

なんて。

間違っても言えない。

香織は涼しい顔で再び舞い始めた。

「ねー、明日ハロワ行くの?」

「どうすっかなー」

「まぁたまには、ゆっくりしてもいいんじゃん? 新しいドラクエ買ったんでしょ?」

「だね。買ったね」

なにげない一言で俺はホロリとくる。

優しいとこあんだよな。こいつ。

少々、暴力的だけど。

そろそろ香織もジョブチェンジさせてやらないと。俺はそう心に誓う。

おし。とりあえず明日はハロワだ。

勿論。

DSとドラクエは持ってかない方向で。












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