おすすめ作品

  「JP」 「糸電話」 「逆向き」 「締め切り」

  ショートショート全作品目次へ


「クリスマスプレゼント」


「お。編み物かい? アヤもやっと女の子らしくなってきたな」

「だって。あたしもう中学生だもん」

本人は怒ったようにそう言うものの。

ツンとあごを背けるしぐさは、まだまだ子供っぽいものだ。

そんな娘の姿を見ていると、つい、わたしの頬も緩み、軽口が出た。

「まさか、彼氏へのクリスマスプレゼントじゃないだろうな?」

アヤはそっぽを向いたまま返事をしない。

会話を聞いていた妻が、あきれた表情でリビングに入ってきた。

「あなたってば、何をいまさら……、もう家にも遊びに来てるのよ」

「な、なにぃ!?」

顔が一瞬で紅潮するのが自分でも分かる。

「許さん! 絶対に許さん!」

「バカね。あきらめなさい」

「駄目だ! いったい誰の許しを得て――」

「高校生の頃、親の目を盗んであたしの部屋に忍び込んでたのは誰よ」

「う……」

言葉に詰まる。

それは言わない約束だろう……

「喜んでくれるかなー」

アヤは編み上がった作品を、天井の照明にかざすようにして検めている。

「ワタルくんってばお腹が弱いから、腹巻きを編んでみたんだけど。どう?」

「うん、なかなか、初めてにしては上手じゃない」

許さん……

パパは許さん……

わたしのつぶやきをよそに母娘の会話は続く。

「あれ? アヤ、これは何? 

なんだかこの部分だけ、靴下みたいに飛び出てるわよ。失敗しちゃった?」

「ああ、それはいいの。だって、こないだおばあちゃんが言ってたんだもん。

『いいかいアヤちゃん。おばあちゃんは反対だよ。

ああいうタイプの男は大抵、腹にイチモツを――












ショートショート:目次へ

posted by layback at 01:11
| Comment(9) | TrackBack(0) | ショートショート作品

「ジョブチェンジ」


「なかなか仕事ってみつかんないもんだな」

俺がひとり言のように愚痴ってみると。

「まー不景気だしねー」

香織は姿見の前で、舞いながら返事をする。

どうやら。友人の誘いで始めたフラメンコとやらにハマっているらしい。

俺はちゃぶ台に片肘をついて缶ビールを呷った。

「だからさー。ロールプレイングゲームみたいに、

もっと簡単に転職できたらいいんだよな」

「何それ。いわゆるひとつのジョブチェンジ?」

「そうそれ。で、なんで長嶋?」

俺の突っ込みを、香織は華麗にスルーする。

「じゃあマァくんのジョブチェンジ歴はー、

会社員→リストラ→パチプロ→派遣社員って感じだね、ハハハハ」

「……。リストラってジョブなの?」

それにハハハって笑ったよコイツ。ハハハって……。

「やーだ。まだ傷付いてるんだ? いい加減忘れなよ」

フン。

俺はまたグビリ。

香織の舞はじょじょに激しさを増す。

掃除はおろそかな俺の部屋。

当然、捲き上げるほこりもハンパない。

嗚呼。俺のおつまみ。モロキュウ哀愁。

「まぁ引きずってる訳でもないけどさ。あれは痛恨の一撃だったんだよ」

「まーそうだよね。で、ジョブチェンジできたら何になるのよ? 戦士? それとも賢者?」

「そりゃーまーやっぱし――、

遊び人だろ」

「死ねよ」

「いてっ。バカ、グーはよせ、グーは」

「あたしだったらねー、今OLでしょ、その次はお嫁さん→お母さん。でも、最終的には舞踏家かな」

香織は、照明を抱くかのように両手を天井に広げ、うっとりと目を閉じる。

「武闘家ね。キミならすぐになれそうだよね。うんうん」

それ、フラメンコっつうより太極拳だもんね。

なんて。

間違っても言えない。

香織は涼しい顔で再び舞い始めた。

「ねー、明日ハロワ行くの?」

「どうすっかなー」

「まぁたまには、ゆっくりしてもいいんじゃん? 新しいドラクエ買ったんでしょ?」

「だね。買ったね」

なにげない一言で俺はホロリとくる。

優しいとこあんだよな。こいつ。

少々、暴力的だけど。

そろそろ香織もジョブチェンジさせてやらないと。俺はそう心に誓う。

おし。とりあえず明日はハロワだ。

勿論。

DSとドラクエは持ってかない方向で。












ショートショート:目次へ

posted by layback at 00:20
| Comment(6) | TrackBack(0) | ショートショート作品
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。