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「ロバート・デ・ニーロ」


ずらりと横並びに、ロバート・デ・ニーロが80人。

口はヘの字に、顎には皺を寄せ。

ハァ、やれやれだぜ。の素振りをしている姿が脳裏に浮かんだ。

が、すぐに、ソファで隣に座る彼女の声が、そのイメージを掻き消す。

「だ、か、らー、違うって。デ・ニーロじゃなくてデニール。80デニールだよ」

彼女はそう言って自らの太ももを包むカラシ色のタイツをトントンと指差した。

「その数値がストッキングとかタイツの破れにくさの目安なの。

まったく、80デ・ニーロって……。いったいそれ、なんの単位よ。

どうせ頭の中にロバート・デ・ニーロが沢山並んでるところでも思い浮かべてたんでしょ?」

むむむ……鋭い。ぐうの音も出ない。

こいつはエスパーかと思う。

「ハァ、ほんっとにバカなんだから……」

彼女はまるでデ・ニーロさながらに、やれやれだぜの素振りをしてみせた。

「ま、まぁデ・ニーロでもパチーノでも、別にジョニー・デップでもいいんだけどさ――」

私はそこでさりげなく舵を切り、話題転換を試みる。

「――そういえばさ。ソマリアの海賊の話聞いた?

なんだかエライことになってるらしいね。被害額がさ。

あんまりニュースで海賊海賊って報じるのもどうかと思うよね。

海賊になりたい。とか言い出す子供が増えたらどうするんだよ。

世界中の海が海賊で溢れかえったりしたら。それってある意味マスコミのせいだよね。

海賊って聞くと単純に『ワンピース』みたいな世界を思い描いちゃうんだろ? 今の子供。

分からないではないよ。なんだか、まず“海賊”って響きがいいもんね。

たしかに、ワイルドでいて奔放で、“男のロマン”的な匂いがする言葉だし。

だからさ。俺思うんだ。呼び方を変えたらいいんだよ」

「呼び方を変える?」 彼女は怪訝な顔つきで訊き返す。

「そう。例えば“珍船団”とかね。恰好悪い名前に変える訳。呼び方をさ。

そうしたら海賊になりたがる子も減るだろ?」

「ふうん」

彼女は微妙に首を傾げ、いまいち納得のいかない様子だった。

案の定、反論が返ってくる。

「でも、そもそもね。日本で海賊になりたくても求人がないでしょ。

結局ソマリア近辺の子供に伝わらなきゃ意味ないよ。現地は何語だか知らないけど。

少なくとも英語じゃないと通じないんじゃない?」

「うーん、そうか……。ちなみに海賊って、英語で言うと何だっけ?」

「たぶん、パイレーツかな」

「じゃあ――、“パイレーツ”改め、“ダッチュウノ”とかさ」

「……」

「ダメ?」

「ダメ。つまんない」

彼女は退屈そうな表情でベッドの方へ移動し、ドスンと腰を下ろした。

スプリングの反発力で、お尻が数回バウンドする。

「そんなかわいい顔しておっぱい寄せてもダメなんだからね。貧乳のくせに」

彼女は、おどける私に向かってそう言うと、フンと鼻を鳴らした。

豊かな自分の胸を誇示するように突き出している。

「なんかさ礼二君の話ってさ。オチが中途半端というか中折れというか。結構つまんないよね」

中途半端! いわんや中折れ! 

なんたる侮辱……。

だいたい、中折れ(夜の方)は私だけのせいではないと思うのだが……。

「どこかのウェブ小説家みたい」 

彼女は半ば投げ遣りにそう言う。

「何それ」 

「ネットでショートショート小説を書いてる人がいるのよ。

その人のサイト。わりとランキング上位に居たりするんだけど。

てんでオチがなってないのね。コントとかダジャレばっかりでさー。

礼二君ならきっと。あの作者と気が合うだろうね」

彼女は自分の胸を抱き寄せるように腕を組み、うんうんと頷いている。

「でもね。あんなのショートショートじゃないわよ。星新一に謝れって感じ」

ひどい言われようだ。

私はネット小説を書いている事を、誰にも教えていなかった。

家族にも友人にも、そして彼女にも。













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「無駄遣い」


永谷彰浩。

その著作800余冊。

なんという多作。

恐らく地球上で今、最も紙資源を無駄遣いしている男だろう。

なに。それぐらい読まなくたって分かる。

だが批判するためには一冊は読んでみるのが筋なのかもしれない。

そう思い、所用のついでに書店へ向かう。

私は書架の一角を占領する彼の著作群の前で目を瞑り、えいやっと一冊抜き出した。

「今日より明日――素敵なあなたになる為の50の法則――」

うぬぅぅ。よりによって私はなんというタイトルを……。

まあいい。どうせ、どれも似たり寄ったりに決まっている。

カバーなしでよろしいですか?

レジにて赤いフレームのメガネをかけた書店員の女性に訊かれる。

いえ、カバーありでお願いします。

私は断固、即答する。

何? ブックカバーも紙資源の無駄遣いではないのか?

バカな。

帰りの電車で読むのだからしょうがないではないか。

公衆の面前で、こんなものをカバー無しで読まされたら、私はきっと――

吊革で首を吊りたくなる。

何? 

あの輪に頭が入るのかって?

うるさいうるさいうるさい。

読んだ。

電車に乗って十分で読了した。

私。素敵になれたかしら……。

なんてバカな。

ぐぅぅぅ。ギリギリと歯軋りしてしまう。

隣に立っていた女性が私の苦悶の表情を目にして距離を取る。

残りの二十分間。

電車に揺られながら私は吊革で首を吊る誘惑に駆られ続けた。

結論。

こいつは純然たる紙資源の無駄遣いだ。

だが私も人の事はいえない。

猛省する。

時間の無駄遣いだった。













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