ある日曜日。
部屋で寝そべりながらテレビを観ていた。
壁掛け時計にちらりと目をやる。あと10分ほどで15時だ。
このくだらないバラエティ番組も、もうすぐ終わるだろう。
と。唐突に、8ビートのリズムが鼓膜を打った。
なんだ?
動揺する出演者たち。
いきなり。
画面の端から黒タイツに上半身裸の男が登場した。
おい、
俺は思わず身を起こし、前のめりになる。
まさか・。
復活したのか?
ここ数年。まったくテレビで見る事も無かったハードコア芸人だ。
ネット上では、うつ病の治療を受けているという噂も聞こえていた。
とにかく常識外れの言動から目が離せない。
故に刺激的で滅法面白い。
だが、メディア側の過剰な自主規制の流れで、
いつしか彼は、使いづらいタレントになっていった。
まずゴールデンタイムからその姿が消え、出演機会はじょじょに深夜枠に限られてゆく。
やがて、彼の勇姿を茶の間で見ることは完全に無くなった。
俺は目をこする。
見間違えではない。
見紛うはずもない。
このスタイル。キレの良すぎる動き。
それよりなにより常軌を完全に逸した目。
大声、というよりむしろ咆哮と呼ぶのが相応しい魂の叫び。
野獣にがぶり寄られたカメラのレンズには涎がスコールのように降り注いでいる。
もともと痩せていたが、さらに少し痩せたか?
ますます薄くなった髪には白髪も混じっている。
だが、芸風はまったく変わっていない。
そう。ヤツはいつも全力だった。
そして今も。
きっとこれからも。
なぜだか出演者たちにはやし立てられ、
不条理な流れでヤツは、熱湯風呂に入れられようとしていた。
刹那。水しぶきが弾ける。
ヤツは自らダイブした。しかも頭からだ。
黒タイツに包まれた両足が激しく空を蹴る。
水中カメラ(湯中カメラか?)が捉えたのは、まさに阿鼻叫喚の図だった。
ぐ。頬が引き攣る。
俺は堪えきれずに噴き出した。
バカだなぁ……。
相変わらず、本物のバカだ。
笑い転げるうちに。
いつのまにか俺の頬を、何かが伝っていた。
違う。俺は泣いてなんかない。
ただ。
江頭が熱くなっただけさ。
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