よもや僕が、地球上に残された最後の男になろうとは――
だがリカルドは、悲観することもなく、わりと気ままに毎日を過ごしていた。
電気は屋根に取り付けたソーラーパネルから供給されるし、
食料や飲料水は捨て置かれたショッピングモールに行けば売るほどある。
(もちろん売る相手はいないのだが……)
リカルドはこの日も部屋で一人、カウチに座り、
録り溜めたテレビ番組をヴァーチャスコープで楽しんでいた。
うあっははは!
こいつは傑作だ! ははっ、はっ、はぁ……
リカルドは肩を落とした。
そりゃあ、ときおり寂しくなることもある。
家族との団欒を思い出したり、恋人のマリアのことを考えてみたり。
リカルドは力の無い手つきでヘッドフォンとスコープを外した。
その時。
ノックの音がした。
また来たか……。
リカルドはゆっくりとドアに歩み寄る。
そして、その上で這いつくばった。
「リカルド、いい加減になさい」
床に埋め込まれたドアの下から母親の声がする。
「あなたもさっさとこっちの世界へ来なさい」
「嫌だね。僕が暗い場所苦手なの知ってるだろ」
「リカルド。あなた紫外線に焼かれて死んでもいいの?」
「暗さに怯えて死ぬよりはいいね。それに防護服だってあるんだから大丈夫さ」
ふう、と母親の重たいため息が床に響いた。
「いくら室内だと言ってもね、紫外線は入ってくるの。
だから世界中の人々が地下に潜って暮らしているんでしょ。
ねぇリカルド。いい子だからママの言う事を聞いて」
「嫌だ」 リカルドは寝そべったまま首を横に振った。
「世界中見回しても、もうあなただけよ。
地上に残っているのは。お願いだから早く降りてきて……」
近年。地上に降り注ぐ紫外線の量が急激に増大した為、
人類は皆。地球下に避難してしまった。
もはや地球上に残っているのはリカルドだけだった。
「前向きに検討しておくよ。ママ」
リカルドは下を向き、小さくそう言った。
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