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  「JP」 「糸電話」 「逆向き」 「締め切り」

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「二次元萌え!」


『特集です』

男性キャスターの声の背景に、聴きなれたアニメソングがかかっている。

タカユキはBGMがわりにつけっ放しにしていたテレビの方へ目をやった。

『近頃、アニメやゲームのキャラなど二次元の女の子に恋をして、

生身の女性と恋愛の出来ない若い男性が増えているそうです』

画面が切り替わり、VTRが流れはじめた。

パソコンショップの立ち並ぶ街でインタビューを受けている若者たち。

どれもこれもモテそうにない顔ばかり。タカユキと大差ない。

僕だってきっと、街に出ていればマイクを向けられていたのかもしれない。

タカユキはイスを回転させ、テレビの方に向き直りながらそう思った。

映像がスタジオに戻る。

メガネのキャスターと作家のコメンテーターが、

いかにも台本通りのやりとりをしている。

『いやー困ったものですね。

このままではますます少子高齢化に拍車がかかってしまいますよ』

『部屋の中でこもっている若者はとにかく外へ出てみましょう。

素敵な出会いは意外と近くにあるのかもしれませんよ。

しょせん二次元の女の子との恋愛が成就することはないのですから、

早く現実世界に目を向けてもらいたいものですね。では次はお天気予報です――』

バッカじゃねーの。

タカユキは口の中で罵りの言葉を転がした。

だいたい三次元のオンナなんて面倒くさいんだよ。

実際、メールとか電話とかデートとか考えただけで気持ちが萎えてしまう。

二次元萌えの何が悪いんだ。

性欲だってネット上で解決できちゃうんだから。

リアルに女の子と触れ合う必要性なんかまったく感じない。

だいいち、裸で抱き合ってするセックスなんて気持ち悪くて、したいとも思わない。

他愛ないテレビの特集コーナーがきっかけとなり、

タカユキの思考は一気にあふれ出した。

リモコンでテレビの音を消したものの頭のざわめきは収まらない。

タカユキはイライラする気持ちを洗い流すように、

マウスパッドの側に置いたグラスをぐっと呷った。

Youtubeでアニメの動画を見ながら晩酌をしていたのだ。

と言っても中身はオレンジジュースなのだが。

タカユキは20歳になった今でもお酒を美味しいとは思えなかった。

毎晩のように酔っ払って帰ってくる父親を見ていると別に飲みたいとも思わない。

コンビニのアルバイトから帰ると、引きこもり気味にディスプレイに向かう日々。

二次元の中の世界が一番落ち着きます。

さっきのインタビューで、そう答えている学生がいた。

タカユキはうなずく。まったく同感だった。

 
  ☆    ☆    ☆


素敵な出会いが犬のウンチのように道端に転がっているはずなどない。

それが一般的な常識だ。おとぎ話みたいなテレビドラマに騙されてはいけない。

ところが、ある日のことだった。

タカユキがいつもと違う道のりでバイト先へ向かっていると、

酒屋の自動販売機の隣に一人の女の子が立っていた。

日に焼けた健康的な肢体と眩しい微笑み。

惚れた。一瞬で惚れた。

タカユキは一発で胸を撃ち抜かれてしまった。

酒屋の店先に立つ彼女はまさに夏の女神、まごうことなき看板娘だった。

一方、通りで立ち止まり、等身大のキャンペーンギャルの立て看板を、

腑抜けた顔つきで見つめているタカユキは、明らかに街の異物だった。

道行く人々は怪訝な顔でタカユキに視線を向け、

かかわりあいになりたくないと目を逸らしてゆく。

その日からタカユキは毎日、酒屋の前を通り始めた。

いっそのこと彼女を小脇に抱えてどこかへ走り去ってしまおうかとも考えたが、

人目のある通りでそんなに目立つ行為が出来るはずもなく、

行き場のないタカユキの想いは日に日に募っていった。

どうしよう。彼女と一緒に暮らす方法はないだろうか?

タカユキはアングラの掲示板で知り合ったトロイというハンドルネームの人物と、

ある取り引きをした。オンラインゲームで集めてきた武器やアイテムと交換で、

強力な魔法を手に入れたのだ。この魔法さえ使えば、

彼女に触れ、彼女と言葉を交わし、彼女の手を取って、

そしてそしてそして……

彼女と二人で過ごす日々を想像してみると――

ああ、もう!

さぁ、明日決行だ。


  ☆    ☆    ☆


タカユキはとっておきのTシャツを下ろし、

ユニクロで買ったばかりのジーパンを穿いて、家を出た。

ラッキーなことに酒屋の周りには人っ子一人いない。

早速、いとしの彼女の前で必死に覚えた魔法を唱える。

「ジゲンニジゲンサンジゲンイチゲンサンハオコトワリ!」

ふっとつむじ風が巻き起こり、どこからともなく吹き出した白い煙がタカユキを包み込んだ。

  
  ☆    ☆    ☆


酒屋の前を一人の主婦が通りかかった。

あら。看板が変わったわねぇ。

いつのまにかカップルになってるじゃない。

女の子はそのままだけど、隣の男の子は……誰?

水着姿の彼女に腕を組まれ、タカユキは満開の笑顔を見せていた。

右手には誇らしげに大ジョッキが握られている。

もっとも、その中身はオレンジジュースのようだったが……












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「父の日のプレゼント」


僕が休日前の夜に寛いでいると、いきなりマキが話しかけてきたんだ。

「来週。父の日だよね。

明日、うちのパパとまぁくんのお父さんのプレゼント買いに行くから付き合ってね」

「ええー!? あのさぁ、疲れてるんだよね。俺。

だいたいマキのお父さんの分はいいとして、

うちのおやじに父の日のプレゼントなんていらないっつうの」

「なんでよ?」

「うちは男兄弟だったからそういうのナシなんだよ」

「何言ってるのよ。男兄弟とか関係ないでしょ。

嫁としては旦那さまのご両親に気を遣う部分もあるのよ。

それに男の子でも、父の日と母の日、ちゃんとプレゼントする子いるよ」

「えー。気なんて遣わなくていいよいいよ。うちの親なんかにさ。

俺そんなのあげたことないし。なんか気持ち悪いだろ? 想像できねーよ。 

それよりプレゼント買うお金があるなら小遣い上げてよ。

最近の物価の上昇率はマジ半端な――」

「ダメ」

「ちぇっ。ケチ」

「子供っぽいなぁ。ま。いいや。

とにかく選ぶのは私だし、お金も私が出すから。

付いてくるだけ付いてきてよ。ね?」

「わーった、わーった。 ハァ。まったくせっかくの休みがよぉ……」


  ☆    ☆    ☆


「お前さぁ。買いすぎじゃね? 両手がちぎれそうなんですけど」

「男の子は弱音を吐かない!」

「はいはいスミマセンねぇ。しかし父の日のプレゼントとか言いながら、

これってほとんど自分の――」

「なんか言った?」

「いえ。いったいどこにそんなお金があったのかと……」


  ☆    ☆    ☆


「物だけ送りつけるのもアレだから、明日は二人の実家をハシゴだね」

「え?」

「まぁくん運転手よろしくね」

「渡すだけならお前一人でも――いやウソです。

そんなこと心にも思ってません。(お前目が怖すぎるよ……)」

「えーと。これはうちのパパの分でしょー。で、これがまぁくんのお父さんの分。

で、これが、まぁくんの分だよ。ハイ」

「は? 俺、まだ誕生日じゃねーぞ」

「来週からまたお仕事頑張ってね。お父さん」

「……?」

「これからは二人を食べさせていくんだから責任重大だぞ」

「俺、そんなに食わねぇよ。少食じゃん。

お前はいつも食いすぎだからそんなに腹が――痛っ!」

「バカ。鈍感。 パパになるんだからしっかりしてよね」

「パパ?」

「今度はさー、ベビー用品を一緒に見に行こうね」

「え。それって……お前、もしかして……そういう事?」

「そういう事」

ってな訳でみなさん、僕はどうやらパパになるようです。











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