警備員のアルバイトを始めて一週間。
やっと仕事にも慣れてきた。
だが一日中道路の上で立ちっぱなし。
足腰には疲れが相当キテる。
そして何よりも最大の敵は――
暑さだ。
今日もひたすらに暑かった。
まったく太陽の容赦のなさときたら!
焦げてしまうかと思った。
まだ五月なのにこの調子だと、夏場は一体どうなるのだろう。
はっきり言って不安です。
仕事が終わり、事務所へ向かうハイエースに揺られながら、
僕は先輩の宮本さんに相談してみた。
「夏場に体力が持つかどうか自信が……」
「何言っとる! 若えもんがよ」
宮本さんは狭い後部座席で器用に腕を畳み、僕の背中をバシンと叩いた。
差し込む夕陽のビームの中。埃が舞った。
「よし。スタミナつけてやるから今日はウチに寄りな。
故郷の高知からカツオを送ってきとるきに」
僕は気乗りがしなかったのだが、
断りきれずに宮本さんの部屋へお邪魔した。
木造二階建ての寂れたアパート。
中へ入ると三畳ほどのキッチンに六畳の和室。
砂壁に寄せられたちゃぶ台。敷きっぱなしの薄い布団。
「ちょいと待ってろよ」
宮本さんは僕を台所に立たせたまま、布団を投げ飛ばすようにして畳んだ。
そのままの流れでちゃぶ台を部屋の真中にセットする。
「兄ちゃん、さっき腰が痛いって言ってたな。
俺もそうなんだ。まぁこの仕事はしょうがねぇよ。職業病だな」
宮本さんはそう言うと、部屋の隅から折りたたみ式の椅子を出してきた。
キャンプのときに使うようなナイロン製のディレクターズチェアだ。
「兄ちゃん。今日は客人だからこれに座りな。
座布団に座るより椅子の方が楽だろ?」
「いいですいいです!」
僕は手を振って辞退した。口ぶりは荒っぽいが優しい人だ。
「そうか? なら俺が座るよ」
宮本さんは、ハァー疲れたなーオイ。
などと声を出しながら椅子に腰を下ろした。
「やっぱりよ。狭い部屋で暮らすには折りたためるモノが一番よ。
ちゃぶ台、椅子、布団。 折りたたみさえすりゃ場所を取らねぇからな。
もし、この部屋にベッドでも置いてみな。
俺とベッド、どっちが部屋の主だか分かりゃしねぇ」
「そりゃそうですね」
苦笑いした僕はすっと部屋を見回して続けた。
「ところで宮本さん、ご結婚は――」
「ご結婚? ご結婚はなあ。ああ、してましたよ。
してたんだが、逃げられちまってなぁ……、
まぁこんな狭い部屋じゃ、女房なんて居ても邪魔なだけだからよ」
そう言うと、ずずっと洟をすすり、日焼けで真っ黒な顔をくしゃっとしかめる。
「女房なんて、女房なんてよ……」
強がりなのだろう。きっと寂しいはずだ。
「でもいいんだ、今では――」
宮本さんは言いかけて、ごそごそとポケットを探る。
ま、まさか……
「――これよ」
出てきたのは折りたたまれた紙片。
宮本さんは笑顔でそれを開いてみせる。
デリヘルのチラシだった。
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