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「ロティとわたし2」


ある晩、私がパソコンに向かい、執筆をしていると、

ディスプレイの端からチロチロと顔を出すものがいる。

ブログペットのロティだ。

だが今は遊んでやらないぞ。

丁度乗ってきたところなのだから。

そのまま無視し続けていると、彼はマウスポインタに頬をすり寄せてきた。

くく。思わず笑みがこぼれそうになる。

「レイバックー」            

「なに? 今お仕事中だよ」

「レイバックー」

「今はダーメ」

「レイバックー」

「うるさいなー、分かった分かった」

私はキーボードを打つ手を止める。

「なんなの? ロティ」

「すこし風邪気味みたい」

ロティは鼻水をたらりと垂らし首をかしげている。

「なんだ、またお外で悪さしたのか?」

「遊んできただけ」

「誰と?」

「お馬さん」

「馬?」

「うん面白かったぞ」

ロティはそう言うと、クシュッとくしゃみをした。

「お馬さんの名前は?」

「トロイ」

……

「ウイルスじゃねーか!!」

危うくコーヒーをこぼしかけた。

「でもアイツいいヤツ」

「いいヤツじゃないだろう……。

ったく、ノートン先生(セキュリティソフト)は何してるんだよ」

「トロイにまたがって出てったよ♪」

工工工エエエエエエェェェェェェ(゚Д゚)ェェェェェェエエエエエエ工工工ッ!!

私はキーボードに額を打ちつけた。

「オワタ……」










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「林檎とナイフ」


ベッドの隣で座りこむわたし。カーテンの隙間から西日。どんよりと跳ね返る。さくり。皮と果肉のあいだに刃先がすべりこむ音が病室に響きわたしはその音の余韻を味わいながらいったい今日何個目の林檎を剥いているのだろうかとみずからにたずね答えを聞かぬまま親指の腹で林檎の皮をたぐりよせつつ果物ナイフをすすすと前へ押し進めてゆくのだが、その切れ味の鈍った刃先が強情なまでに赤い林檎の皮とひどくみずみずしい果肉のあいだに挟まれ一向に進んでゆかぬので、思いのほか手に力が入ったのであろうか、およそ七分目まで剥きおえていた林檎の皮はわたしの思いを拒絶するかのようにはらりと病室の床に落ち、滑らかだった湖面にひとつ小さな波を立てた。わたしはふぅと大きく息を吐き、剥きかけの林檎を剥きかけの林檎の山の上にそっと置き、籐で編んだかごに入れていた新たな林檎をひとつ手に取る。さきほどの林檎よりはやや大ぶりで重いようにも思われる。林檎の皮を見事最後まで途切れることなく剥くことができればこの人は目を覚ましてくれるのであろうか。わたしは誰も答えてはくれぬ問いを自分に投げかけナイフの刃を赤く穢れた皮と張りのある果肉との間にさくりとすべりこませる。まるでひやりと冷えた布団の隙間に身体をすべりこませるときのように。そろりそろりと刃先をすべらせてゆく。すると淫靡で甘い香りが立ちのぼりわたしの鼻腔をくすぐりはじめる。果肉から湧き出てくる蜜がわたしの指をしとしとと濡らしてゆく。わたしは湖面に波を立たせぬように奥へ奥へと刃先をすべらせる。すすす、すすすとすべらせる。彼女は目を覚ますだろうか。彼女は声を上げるだろうか。赤く爛れた皮と熟れた果肉にはさまれながらわたしはナイフを走らせる。すすす、すすすと走らせる。彼女はまだ目を覚まさない。











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