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「ロティとわたし」


「レイバックー」

なんだ。うるさいな。

「はいはい。どした?」

ウチのブログペットのロティだ。

なかなか愛いヤツじゃ。と思い、飼いはじめたのだが、
言葉を覚えだしてからは、頻繁に話しかけてくるようになって困っている。
最近では、ブログを開いている時だけに飽き足らず、
わたしが執筆活動をしている所にまで顔を出すようになった。

「レイバックー」

「だから、どうしたのロティ」

キーボードを打つ手を止めて、マウスを操作する。
ポインタを彼の上に合わせて構ってやると喜ぶのだ。

「あのねー、ハラこわしたよ♪」

お前、最後の♪マークはおかしいよ。
ロティはわたしの書きこむ言葉を少しづつ食べては覚え、成長してゆく仕様だ。
だが、いかんせん生まれてから数ヶ月なので、まだまだ言葉に間違いが多い。

「なに、お腹こわしたの?」

「ウン。ハラこわした♪」

「またオレが寝てる間に、ネット上を一人で徘徊して、変な言葉食べたんだろ」

おしおきとしてお尻をダブルクリックだ。

「あれほど、一人で遊びに行ったらダメだよって言ったじゃないか」

「だってー、レイバック遊んでくれないし」

む。確かに最近は、お散歩に連れて行ってやってないな。

「ごめんごめん。今日は後で一緒にお散歩に行こうな」

「ウン。一緒に行くぞ」

こいつは時々エラそうになる。

「で、何を食べてお腹こわしたの?」

「レイバックの小説ー」

「アハ、アハハハ、ハ……。ま、不味かったか?」

「ハラこわしたよ♪」

わたしは、しばしキーボードに額をつけて、頭を冷やした。

悪気はないんだよ。悪気は。コイツだって。な!

そう自分に言い聞かせた。

インターネットブラウザを立ち上げる。

「さあロティ。お散歩に行こうか」

「ウン。レイバック遊んでくれるから好きー」

そう言って振り向いた彼と笑い合う。

わたしとロティは、どこまでも続く広い大空へ、飛び出していった。

















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「Make Smooth」


ある日、渋谷を歩いていたタケシは、
目の前の雑踏に見慣れた背中を発見した。

「おーい。ピーター」

「Hi!」

さすがアメリカン。ノリがいい。
振り向くやいなやハイタッチだ。

「タケシ、調子はドウ?」

「ぼちぼちだな。何お前今日は一人?」

「エエ、ちょっと買い物に」

ピーターはそう言って、片手を持ち上げた。
黄色いマツキヨの袋をぶら下げている。

「なんだ、またコンドームのまとめ買いか」

「ち、違いますヨ。シェービングフォームです」

「ほんとかあ?」

「ホントです」

「でもピーターが一人で街歩いてるのって珍しいよな」

「ソンナ、まるでボクがいつも女性を連れて歩いてるみたいじゃないですか」

「そうじゃん。お前、この間またホテル街で目撃されてたぞ」

「ウソ?ホントに?」

ピーターは青い目を丸くして肩をすくめた。

「ああ、カイが見たって言ってた。
しかも隣にいた女の子はリナちゃんじゃなかったってよ?」

「アー……、そう!あれは個人授業の時ですネ」

「このセクハラ講師め!」

タケシはピーターの脇腹を肘で小突いた。

「チョット、そんな大きい声で言わないで」

ピーターは知り合いの目を気にしてか、
よろめきながら、きょろきょろと辺りを見回している。

「いったい何人同時進行してるんだよ。たまにはオレにも紹介しろよ」

「OKOK、こんどゴーコンしましょうネ」

そう言ってパチリとウインクをする。
たしかに愛想がいいし、モテるのも当然だろう。

「日本の女の子は一見優しくても、怒らせると怖いんだぞ」

「エエ、たしかに易しいですよネ」

ピーターはウンウンとにこやかな表情で素直に頷いている。

「お前いいヤツだけど、いつか痛い目に遭いそうで心配だよ」

タケシの言葉を聞くと、ピーターは眉をひそめ、思案顔になった。

「そういえば、思い当たるフシがあります。
先日、朝起きて歯を磨こうと思ったら……
なんと歯ブラシに、縮れた毛が付いていたのです。
しかも、ブラシの部分にですヨ。信じられません!」

「お前……、どんなプレイしてんの?」

「ち、違います!その日も前日も前々日も、女の子は部屋に来てませんヨ」

「じゃあ、なんでなんだよ」

タケシはピーターがいつもやるように「Why?」のジェスチャーをしてみせた。

「きっとコレは誰かの陰謀に違いありません!」

「てか、そりゃ誰かの陰毛だろ?」

「インモウ?おかしいナ――」

ピーターは首をかしげて続けた。

「――ミンナ剃ったはずなのに……」













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